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書店員のオススメ読書日記

本文です

Photo 「白い紙」はテヘランからイラクとの国境の町へ、父親の仕事の都合で引っ越してきた少女の話である。イラン・イラク戦争の戦時下で、少女は自分たちの未来を想像する。私たちに未来があるのだろうか。あるとすれば、どのような未来であるのか。担任教師が言うように私たちの未来は真っ白で、頑張れば未来を変えられるのだろうか。

 表立って男女が会話することも許されない風土の中、少年と心を通わせる少女。喜びもつかの間、郊外にも戦火は近づき、やがて少年は大きな決断をせまられる。未来とは何か、自分とは何か、家族とは何か。短い文章の中に、深い問いかけが含まれている。国の未来と個人の未来、本来なら比べようもないはずのものが、乱暴に比べられていく現実。

 戦時下の緊迫感の中ではあるけれど、年頃の少年少女が同じ学校に集まれば、手洗い場で水をかけあったりする。そんな日本でもよく見られる光景にこそ、生きるという一瞬の輝きが垣間見える。おかれた環境が違うだけで、人は何かを諦めつづけねばならないのだと痛感する一冊です。同時収録の「サラム」も秀逸。

(リブロ別府店 祐保博美)

出版社:文芸春秋
書 名:白い紙/サラム
著 者:シリン・ネザマフィ
定 価:1,300円(税込)

Photo “人生は、どうしても妥協するわけにはいかない本質的に大切なものがすこしと、いいよ、いいよ、そんなことはどっちでも、で済むようなことがどっさり、とでなりたっていて、それを理性でひとつひとつ見きわめながら、どちらかをえらんでいくものだ”

 何年か前の日記に書いた文章だ。この日記帳を読み返すたびに、誰の言葉だろうと思っていた(ズボラな私は出典を書いていなかった)。今回、本書でこの文を発見して『やっぱり!』と嬉しかった。

 須賀さんが通っていたミッションスクールの修道女が、教会の方針に従ってそれまでの修道服から「ふつうの」服装になった。後に須賀さんの大切な友人になるある修道女は、“その「使用前・使用後」の時期の精神的な落差が”“ほとんど感じられなくて”須賀さんは彼女を尊敬し、そして冒頭の感慨につながっていくのである。

 もちろん、須賀さんも“本質的に大切なもの”が分かっていた人だろう。イタリア、家族、友人、本、書店…この本には彼女が愛したものたちの事が、驚くべき記憶力で、ていねいに書いてある。それは、あれもこれもと欲張り欲しがって、こだわって、身動きがとれなくなった私をスッキリさせてくれた。

(リブロ福岡西新店 奥原未樹子)

出版社:河出書房新社
書 名:須賀敦子全集 第1巻
著 者:須賀敦子
定 価:998円(税込)

51p9zsamevl__sl500_aa240_ 主人公は三十八才になる独身OL大町ツキコ。

 ある日居酒屋でかつての高校のセンセイと再会する。

 同時に塩らっきょう、きんぴら蓮根、まぐろ納豆と同じものを注文する。センセイは正式には松本春綱先生といい、国語の教師で、歳は彼女と三十と少し離れているが、ツキコは同じ歳の友人よりも近く感じられる。

 いつもの飲み屋でちびちび酒など飲みながら、隣にすわる。会い方といっても、約束するわけでもないから、数週間顔を見ないこともあるし、毎晩のように会うこともある。

 センセイと一月ほど会わないと、なんとなく心もちのおさまりが悪く、もやもやとする。高校の友人や退職した先生たちとお花見に行った時、同級生の小島くんからデートをさそわれたが、ツキコの心の中は、センセイの事が気になってしかたがなかった。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆき、センセイとツキコのゆったりとした日々。

 これから、二人がどうなってゆくのか、非常に気にかかる。そしてセンセイのカバンの中には何が入っているのか?

 これは、かつて、川上弘美が描いた小説を今回コミックにしたものだそうです。

出版社:双葉社
書 名:センセイの鞄①
原 作:川上弘美 
作 画:谷口ジロー
価 格:950円(税込) 
(ブックスタマ 加藤美子)

Bpbookcoverimage  「興行を打つ」というのは、今では聞かない言葉になってしまったが、「博打を打つ」など「打つ」ということは、そこに今までの人生をぽんと賭けて勝負、という侠気が見え隠れしている。

 永六輔は浅草での幼年時代、浪曲界の大立者、広沢虎造の興行を巡ってのいさかいを、次の様に記している。

 「山口組二代目が斬られたのは、この仁丹ビルの中である。(中略)出入りの頭が現場をみていたように父に話しているのを、そばで聞いていた。」 (『昭和 僕の芸能私史』朝日新聞社)その後、この頭は「芸人は斬った張ったがないと一人前じゃない」と締めるのだった。

 今は知らないが、芸能人が興行を打つということは、その筋の人達とは切っても切れないことで、戦後、いわゆる「筋を通さない」人達が、ギャラなどを含めて芸能人達とのトラブルを、頻発させていたなか、山口組の三代目、田岡一雄は「堅気に一切迷惑をかけない」「芸能人達へは真摯に接する」をモットーに、美空ひばり、力道山を中心とした一時代を築きあげた。

 本書は「神戸芸能社」という山口組傘下の芸能プロダクションを舞台にしたノンフィクションだが、田岡の庇護のもと、社員や芸人、歌手のプライドが見え隠れし、戦後の混乱期において、純粋にお客に夢や希望を与えるという,信念に応えていった記録でもある。

 だが、高度経済成長に入っていくと、三国志宜しく、組ごとの抗争や、警察の取り締まりによって、一気に「神戸芸能社」は衰退してしまう。それは一時の仇花の様な世界にも思えるのだ。

 また、名古屋で興行を打った2回目のステージの前に、神戸芸能者の社員からギャラの支払いを迫られ、後で、と興行を仕切っていた組員が言ったところ、社員がなら幕は開けないと返し、組員が「しゃあない」と金を払う件は、同じ傘下とはいえ玄人と堅気の区別をことのほか意識した、田岡の考えが徹底されていた様にも思えてならない。

出版社:双葉社
書 名:実録神戸芸能社
著 者:山平重樹
価 格:1890円(税込)
(大盛堂書店 山本亮)

           どのみち  Photo_3「書くこと」は「カクこと」=自慰行為に過ぎないわけだから、そこに何がしかの意味や魅力を「発見」しようとすることは、そもそも虚しい。逆説的でなく、文学を読む際のかかる虚しさを再認させてくれるという意味で、本書は文句なしに素晴らしいのである。
 しかし、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売上を確認して、驚倒した。

 おそろしく売れていない…。個人的に、2009年のベストと周囲に吹聴していた。とんだ辱めを受けた気分…。死にたい…。
   

 木下古栗と書いて〈キノシタフルクリ〉と読む。81年生まれ。「無限のしもべ」で第49回群像新人文学賞を受賞してデビュー。その後も「教師BIN☆BIN★竿物語」などの傑作を書き下ろすも、デビュー作すら単行本化されることなく今に至り、ようやっとこれが、待望の処女作品となる。要するに、文芸誌でしか読まれないのだから、名も知られないわけだ。

  しかし、なぜ私が見も知らぬ年下の作家の紹介を今この場でせねばならないのか。検索社会の現在、そうした情報はググッたりウィキったりすれば、たちまちに得られる…。だから、私の役割としては最早、本書に手放しで最大級の賛辞を送り、怪力の文芸担当者に然るべき圧力をかけ、平積みによる陳列販売を半永久的に継続してもらうという、ささやかな運動…抵抗にしか残されていない。しかし、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売上を確認して、驚倒した。おそろしく売れていない…。個人的に、2009年のベストと周囲に吹聴していた。とんだ辱めを受けた気分…。死にたい…。結局、あっさりと返品されて、今や棚には1冊しか残されていない。その稀少性が、消費者の飢餓感を喚起すれば良いのだが…。
   

 実際、他人に本を薦める際の栗シェ(クリシェ)として、「読んでみて!絶対に損はさせないから!」というものがあるが、口が裂けても、そのようなことは言えない。端的に、相手の時間や金銭を損させることになるからだ。『ポジティブシンキングの末裔』は、われわれの生活の何にも奉仕しない。ただ、読まされた時間の
無駄を恨み、払った金銭に釣り合わぬ、その無益さに怒り狂うよりない。それでも、「不良債権としての文学」「文学の終わり」はまだしも、「小説のことは小説家にしか分からな」かったり「日本語が滅び」ようとしてさえいる現在、本書の過剰と無為には、幽かな批評性を感じざるを得ない…。感じなくもない。

 そう確信して、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売り上げを確認して、驚倒した。おそろしく売れていない…。個人的に、2009年のベストと周囲に吹聴していた。とんだ辱めを受けた気分…。死にたい…。
 29の中短篇に横溢する、性と暴力とナンセンス、そしてメタフィクション。本書の紹介にあたっては、要約にも深読みにも意味はない。登場人物の全員が妄想上殺害され、われわれは長い射精の終わりを目撃して、憤死する。そこから先は、嘆息ののち、閉じた本書を壁にぶつけるも良し、売り払うのも良し、ただ燃やすのも良し、だ。
   
   また、群像2月号(2010年)に発表された中篇「夢枕に、獏が…」も素晴らしい。ぜひ読んで欲しくない。ただただ時間を無駄にするだけだから…。本当に。そんなことは、題名を見ただけで分かりそうなものだ。

 同じ群像では、佐々木敦氏による『ポジティヴシンキングの末裔』の書評も掲載されている。フルクリ一読、誰もが感じずにはいられない、中原昌也氏の著作との関連性、というか、模倣にも言及されているし、それを超える可能性や期待もほのめかされている。そうした可能性や期待を、私もささやかに感じているので、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売上を確認して、驚倒したのだった。おそろしく売れていない…。しかし、個人的に、2009年のベスト。文句なし。YES
   
  (ジュンク堂書店 小杉悠平)
   
出版社:早川書房
書名:ポジティヴシンキングの末裔
著者:木下古栗
価格:1890円(税込)

売れ筋の本からマニアックな専門書まで、本のことを知り尽くしている書店員さんがオススメの本を紹介する読書日記。書評だけでなく、時には誰も知らない書店の裏話などが聞けることも!?読書好きな人必見のブログです。

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