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書店員のオススメ読書日記

本文です

 これは「三角関係の物語」だ。とても複雑で、優雅な。

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 なぜ複雑なのだ、と思う方もいるだろう。ふつうの三角 関係は、男1女2、もしくは女2男1で組み立てられたものであり、「三角の一点を排除し、男1と女1が直線で結びつくことをめざす戦い」である。足のひっぱりあいとか罠の掛け合いとかがあるかもしれないが構成じたいはとても単純だ。しかし本書にはまず、たくさんの三角関係が登場する。

 アルゼンチン郊外で育った佐和子(アルゼンチンでの呼び名はカリーナ)と妹のミカエラと、佐和子の夫である達哉。達哉と結婚したのは佐和子だけれど、彼女より達哉とミカエラのほうが似たもの同士だ、ということを3人全員が知っている。

 時が経ち、シングルマザーとなったミカエラは、美しく成長した娘が自分の上司と関係をもっていることを知らない。事実上は「上司と上司の妻と娘」の三角関係だが、知られてはいけない度合からすると、「ミカエラと娘と上司」が三角形を構成しているようにも見える。

 さらに、結婚20年を過ぎていきなり離婚を申し出た佐和子と彼女の相手である田渕と達哉。遊び放題だった達哉は、自分と数々の女たちと佐和子では、三角関係などにならない、その程度だと佐和子もわかっているはずと高をくくっていたが、彼女自身が他のところで三角を作るとは、思いもしなかったのだ。

 さらに、ミカエラの娘にふられた元BFもいる。佐和子になつく近所の風変わりな女の子もでてくる。それぞれが、「あと一人」を加え、素朴な、あるいは奇妙な、三角関係を作る。

 数だけではない。この三角形たちは、「一辺を排除したらあとの二辺が直線になる」という構造をしていない。組みひものようにからみあっており、どこか一辺が抜けたらほかの二辺が辺として成り立たなくなるほどの複雑さを見せる。

 たとえば、達哉と佐和子&ミカエラ姉妹。見た目は「一人の男を巡る二人の女」だが、野性的な魅力を持つミカエラが自分たち夫婦にある種の屈託を見せるのは、婚約時代一度だけ関係を持った達哉への執着ではなく「かけがえのない関係だった姉を、結婚などというたわごとに走らせた男から取り戻したい」ということではないか、と達哉は直観している。

 日本とアルゼンチン、過去と現在。わかちがたく地続きである場所と時間の中で、それぞれの三角形は、誰が誰を追い、誰が誰を取り戻すのか?

 普通であれば「どろどろ」とか「壮絶な」とか形容されるであろうこれらが、冒頭述べたように、優雅に進行する。音楽が流れ、互いに手を取り、踊るように。

 江國香織一流の、ある家族そして男女の、愛の物語。

選書:「金米糖の降るところ」ISBN:9784093863100

出版社:小学館

著者:江國香織
税込:1,680円

(代官山 蔦屋書店 Senior Concierge 間室 道子

「かなたの子」

2012年1月30日

9784163811000_3  表題作をはじめ、「前世」「道理」「巡る」「わたしとわたしでない女」など、言葉の向こうに混沌が広がっているようなタイトルの短編が八つ、収録されている。

ふつう、カオスは宇宙や渦巻きみたいに、形がなく、外にも内にも広がっていくエネルギーのイメージだが、本書のは、うねり、脈々と続く線を思い起こさせる。「運命の赤い糸」というのをよく聞くけれど、もっとなまなましく、恋人同士や親子のあいだがぬれぬれと赤い血管でつながっているのが目に見えるような。

 この現代でも、生まれかわりとか予知夢とかいう話題は、「ナンセンス」の一言で片づけきれずに人の気持ちをとらえる。彼方からの繋がりには、ほの暗い不気味さをともないつつ、幾重もの血のあたたかさの交わりがある。その流れに自分も加わり、太古から現在、そして未来に続いて行ける陶酔。

 読者を戦慄させるのは、八つのただならぬ結末ではなく、登場人物たちの密かなこの恍惚感と、それを理解できる自分ではないか。

 

選書:「かなたの子」ISBN:9784163811000

出版社:文藝春秋

著者:角田 光代

税込:1,260

(代官山 蔦屋書店 Senior Concierge 間室 道子

「くちびるに歌を」

2012年1月27日

51682b0yvbql__sl500_aa300_ 長崎県五島列島の中学合唱部を舞台とした、全国合唱コンクールに参加するまでの数ヶ月間のできごとを描いた物語。

 合唱部に美人の臨時顧問が来ることになり、それに釣られ男子生徒が増えるところから物語が始まります。初の混声合唱で混乱しているうえに、真面目に練習しない男子と、女子部員が対立。更には、女子部員の中でもしっくりいかない部分が出てきてしまいます。

 物語は、ある一人の女子部員と男子部員の二つの視点で交互に語られます。女子部員の側は、部活における男子との対立、男子に味方する女子との不和などを中心に進み、男子部員の側では、自分の家族のこと、クラスにも部活にもあまりなじめない自分のことが中心に進んでいきます。そのいずれも、きっと誰もが中学や高校時代に一度は経験したことがあるであろう感情で、自分が中学生だった頃を思い出して、胸をぎゅっとつかまれたような気持ちになりました。

 特に女子部員の、「男子は不真面目!」という苛立ちがあまりにリアルで、自分も一緒に物語の中の男子生徒に腹を立ててしまうくらい。作者は男性なのですが、どうしてこんなに女子部員の気持ちがうまく描けるのだろう、と感心してしまいます。

 一方、男子生徒のパートで描かれる、自分の居場所が定まらない漠然とした不安も、自分が思春期の頃に感じた思いに非常に近く、気持ちが揺り動かされました。

 二つのパートが近づいて、一体となっていく終盤は圧巻です。そして随所に挟まれる、「十五年後の私」への手紙。これも一つのパートとなり、合唱と同じように物語の深みを増しています。この構成の鮮やかさも必見です。

 大人の方は中学生だった頃を思い出しながら、そしていま学生の方は十五年後の自分に思いを馳せながら、幅広い年代の人に読んでほしい一冊です。

選書:「くちびるに歌を」ISBN9784093863179

出版社:小学館

著者:中田 永一

税込:1,575

(ブックファースト 新宿店 平本 久美子)

Photo_2 本書の著者・坪内祐三氏は自ら「ゴシップ好き」(「人声天語」文春新書)と認めているが、文章を書くことを生業にしている、特にメディア関係の人にとっては、必須条件の一つであろう。

 明治から昭和にかけてのジャーナリスト・松崎天民を現在知る人は多いとはいえない。本書を書くにあたって著者は、雑誌連載の中途を挟んで15年(!)歳月を費やした。この松崎の評伝の意義深さはもちろんだが、その時々の著者の息遣いも感じられて面白く、例えば本書の為に調べ物に通っていた、某大学図書館運営がビジネスライクになり、使い勝手が悪くなっていったという、生活に寄った「小ネタ」があちこちに散りばめられいる。その著者と松崎の「小ネタ」は、断絶している様に見える現在と過去を繋げている様で、肩の力を抜いて読むことができるのだ。今と昔で人間そのものが変わることはなく、することはやはり「人間くさい」のである。そして本書も、とても人間くさい。

 さて松崎天民は学歴もないまま、様々な新聞社、出版社を渡り歩いた人であるが、明治末期の大逆事件の刑死者が、荼毘に付される火葬場へ潜入取材を試みたり、東京市内の貧民窟へ泊まり歩いたりと、書き方のプロとして、貧富の差や社会の不条理に切り込む、文字通り「探訪記者」だった。その重みは「『人に逢ふ』それが概に、一つの仕事なのであつた」という彼の言葉に表されている。

 また、松崎の様なひとかどの面白い起伏に富んだ人物は、やはりその時代や人間が作り出すものであって、現在よく言われる「閉塞感」を憂う人達にとっても、責任(?)の一端があることは否定できないだろう。そして型にとらわれない明治時代の良さについて、著者はこう書く。「実際、天民をはじめとする学歴のない探訪記者たちが、良い仕事を残してくれたのだ」。確かに「良い仕事」を判断するには、お仕着せの先入観を持つということは考え物ではないだろうか。特にこういった混沌とした時代にあっては。

書 名:探訪記者 松崎天民

著者名:坪内祐三

出版社:筑摩書房

価 格:2,310円(税込み)

(大盛堂書店  山本 亮)

Photo_2 昨年行われた女子サッカーW杯で優勝し、個人でも得点王とMVPに輝いた澤穂希選手。

「世界一になる」という大きな夢をかなえた彼女が夢を実現させるための心構えを教えてくれます。

 夢をかなえるためにはまず夢を持つこと。当たり前と思いますが、今、夢を持てない人が多いと思います。しかし仕事でも何でも好きなことをやり、常に前向きに夢を追い続けることがすごく大切だと澤選手は書いています。どんな状況にあっても今の自分に出来ることを確実にやり、常に行動することがすごく大切なことだと言うのです。仕事でも勉強でも年齢に関係なくとても参考になると思います。

 夢をかなえた澤選手の苦手なもの・・・。PKが苦手なのは有名ですが、恋愛やお金に関しても少し苦手なようです。しかし苦手だからと言って避けるのではなく「前向き」に考えているところがすごく印象的です。この「前向き」が彼女の長所であり見習わなければいけないことだと思います。

 最後の章の「夢をかなえる」では決して諦めない気持ちを持ち続けていたことが本当に伝わってきます。そして言葉にとても重みを感じました。

 日本にとって澤選手は宝です。そして日本人にとってはもっともっと大きな宝だと思います。挫けそうな時、悩んだ時、この本がきっと助けてくれると信じています。

*澤選手バロンドール受賞おめでとうございます。

書 名:夢をかなえる。

著者名:澤穂希

出版社:徳間書店

定 価: 1,260円

(紅雲堂書店 石川貴雄)

売れ筋の本からマニアックな専門書まで、本のことを知り尽くしている書店員さんがオススメの本を紹介する読書日記。書評だけでなく、時には誰も知らない書店の裏話などが聞けることも!?読書好きな人必見のブログです。

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