書店を劇場になぞらえることがよくある。本は俳優、書店員は演出家であり、書店員は俳優=本の演出をよく考えよ、というわけである(松原治『三つの出会い』日本経済新聞社、p157)。
オーソドックスな演出(=よく整理・分類した陳列)が基本と心得ているが、時として目先の変えた演出(=異色な本の組み合わせ、最近見かけなくなった本をいきなり目立たせる、など)をすることもある。
お客様と俳優とのよい「出会い」を、との気持ちでやっているのだが、いかんせん力の不足、お客様にウケる/ウケない(売れる/売れない)が時の運任せになってしまいがちである。いやはや演出というのは奥が深い。
これはいわばたとえ話であるけれども、私の勤務する新宿本店の中にはホンモノの劇場、紀伊國屋ホールがある。演出家はじめ舞台を支える色々な方々の思いに包まれつつ、お客様と生身の俳優さんとが出会う、きわめて密度の濃い空間である。
公演も間近になるとお客様がどんどんとお見えになる。それにつれて書店の空間も活気が増していく。活気といってもけっして騒がしいものではない。静かな活気とでもいおうか、いわば文化的な香りのする活気なのである。
閉店の時刻と終演のそれが重なる時には、書店のお客様のお見送りと同時にホールのお客様のお見送りもしている。興奮冷めやらぬ面持ちでお連れ様と感想を話し合う方、さっそく演劇論を交わし始める方、また落ち着いた風ではあるが満足気な表情を浮かべて帰路に着く方……俳優さんとお客様の出会い方というのは様々なのだな、と思う。
本とお客様との「出会い」もまた様々であろう。よりよい「出会い」をより多く、と書店員=演出家の模索は続いていくのである。
(紀伊國屋書店新宿本店 大籔宏一)
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