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『ハスラー』

2007年4月30日

Photo_319  単に仕入れ能力が高ければ優秀な書店員かというと、そんなことはない。仕入れとともに削ぐ(何を返品するかを見極める)眼がなければ、いい売り場を作って利益を出すことはできない。

 これは小説に置き換えても同じこと。アイデアを山盛りにして長々と文章を連ねても、作品としての面白さは出やしない。アイデアを整理し、展開を練り、文章を磨き、味わいや間を行間に込めることで、それぞれが効果的に作用し、ようやく魅力の一端が現れてくる。つまりはこれが“削ぐ”ことであり、そうすることで作品が活きてくるわけだ。

 ところが最近、この“削ぐ”ことの捉え方がヘンテコなことになっているように思えて仕方がない。どうも密度あるものを削いでいった結果と、はなからうつろなものの区別がなくなっている気がするのだ(でなきゃケータイ小説がこんなに売れるわけないわな)。

 では、真に削ぎ上げた物語とはいかなるものだろうか?それを知りたいなら、いますぐウォルター・テヴィス『ハスラー』を読むといい。

 いわずとしれた、あの名画の原作がこれである。物語はシンプルだ。ビリヤードの才能あふれる若者が、都会に出て一流のハスラーに挑むも敗れてどん底を味わい、そこからなんとか這い上がって再び勝負して勝つまでの物語だ。

 若者の挫折と再生――そんな成長の物語など、いままでいくらでも聞いたことがあるというひともいるだろう。なかには、そんなものは昔日を手放しでもてはやす単なる懐古趣味だというひともいるかもしれない。だが、それは大きな間違いだ。普遍的主題を扱った物語は山のように存在するが、安易に主題に寄り掛かることなく成立しているものとなると、それほど多くはない。

 読者たるもの、寄り掛かり具合の巧い下手よりも、いかにそれを内包し、物語を通じて新たな発見や再認識を促してくれるかをこそ良し悪しの基準とすべきであり、『ハスラー』はその点において、もっとも無駄なく効果的ゆえに“真に削ぎ上げた物語”といえるのである。

 生涯の再読に耐えうる、最高級の小説のひとつだ。

出版社名:扶桑社
書名:ハスラー
著者:ウォールター・テヴィス
定価:840円(税込み)

(ときわ書房本店 宇田川拓也)

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