鈴木光司さん <作家>すずき・こうじ=『楽園』で作家デビュー。『リング』シリーズが計800万部のベストセラーとなり、ハリウッドで映画化。欧米を中心に講演活動を行うほか、政府の諮問機関「少子化への対応を促進する国民会議」委員を務める。著作が世界20ヶ国語に訳されている。最新刊『なぜ勉強するのか』(ソフトバンククリエイティブ)
まずタイトルに惹かれた。そして思った。これは何かのパロディなのだろうかと。コンラート・ローレンツ(オーストリアの著名な動物行動学者、ノーベル賞受賞)の友人である哲学教授と、ジャーナリストである著者との、「人間の知性の衰退」をテーマとした往復書簡という形でこの本は構成されている。
意外とまじめな本で、おもしろく読み進むうち、ある疑問が持ち上がってきた。「文明が成熟すると人間はどんどんばかになって、終いには知性など消滅してしまう」というジャーナリストの立場と、それに相反して人間知性の有効性を信じる哲学教授の立場が、交互に紹介されるわけだが、ジャーナリストの人間知性に対する評価の低さは呆れるほどである。
愚者=ジャーナリスト、賢者=哲学教授のコントラストがあまりに顕著なため、往復書簡という形式に名を借りた創作ではないかと、かえって疑われてきたのだ。しかし、この本には養老猛司さんの序文のほかには、解説もあと書きもなく、創作か本物の往復書簡なのかに触れている箇所はどこにもない。ただ、ところどころヒントが隠されている。
ジャーナリストの記述の中に、同じくオーストリアの哲学者であるカール・ポパーを「偉大な」と形容している箇所がある。ポパーは、言語活動を中心とした人間の知性は、個々の人間を離れた客観的な世界、要するに文化を作り上げることができ、その点を人間知性の本質と捉えているふしがある。そんなポパーを、偉大と評価する以上、著者の考え方は哲学教授のほうに近いこととなり、矛盾が生じてしまう。
これこそ、創作であることの証しではないだろうか。疑問を解消するには訊くしかない。ぼくは、版元である中央公論新社にその点を問い合わせてみた。担当編集者は親切かつ迅速な対応でぼくの質問に答えてくれた。
「同様の質問は翻訳時から発せられていました。これは創作です」。それを聞いて納得すると同時に、著者であるピーノ・アプリーレに対する評価が格段にアップしたのはいうまでもない。
出版社:中央公論新社書名:愚か者ほど出世する著者:ピーノ・アプリーレ定価:760円(税込み)
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