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泉麻人さん <コラムニスト・気象予報士> いずみ・あさと=『週刊テレビガイド』等の編集に携わった後、フリーコラムニストとして独立。『青春の東京地図(ちくま文庫)』『東京検定(情報センター出版局)』など著書多数。2007年3月に『東京版アーカイブス(朝日新聞社)』が刊行された。
学力テストや雑学ウンチクをテーマにしたテレビ番組が盛りの昨今、“学識派の芸人”というのが、そういったスタジオに欠かせない存在になっている。浅草キッドの水道橋博士も、その1人といっていいだろう。
とりわけ“博士”は優れた文才の持ち主で、浅草キッド名義で著した『お笑い男の星座』のシリーズを始め、タレント本の領域を超えた傑作エッセーを何冊か手がけている。漫才で培われたとおぼしき、エスプリの利いたリズミカルな文体の中に、「甲論乙駁(こうろんおつぱく)」みたいな文学的な難語がさらりと織り込まれる……のが彼の文章の特徴といえるが、今回の『筋肉バカの壁』でも、そんな博士風味を充分堪能することができる。
ベストセラーとなった前作『博士の異常な健康』の続編として書かれた本書では、「加圧トレーニング」と「東京マラソン」の体験記が主軸になっている。加圧トレーニングとは、太もものつけ根に圧力をかけて適度に血流制限することによって、成長ホルモンの分泌が促され、ダイエットや筋力アップの効果が向上する……という画期的なトレーニング法らしいが、細かいことは本書を読んでほしい。
ともかく、そうやって鍛え上げられた肉体をもって第1回東京マラソンにチャレンジする、というわけだが、その過程で石原慎太郎と三島由紀夫が絡んでくるあたりが1つの読みどころだ。
山場の東京マラソンの体験記も感動的だが、そこに至るまでの特訓と日々の生活雑記をブログ(日記)形式で構成した章を、特に面白く読んだ。マラソン挑戦の話が持ち上がった番組の中で、共演していた石原都知事が「5時間以内で完走したら表彰してやる」と公約する。それが数週間後の日記には──。
「収録の合間、東京マラソンの話になったが、都知事が俺たちに対して約束した『5時間切ったら表彰』が、いつの間にか『4時間切ったら表彰』にすり替わっている。慎太郎節炸裂だが、そりゃあ無理だろう」となっている。こういうのは、“時間経過”が伝わる日記ならではの味だろう。
個人的には、マラソン本番3週間前の、07年1月28日の日記が気になった。「昼過ぎ、中野サンプラザ入り。『スカパー! 東京サブカルサミット2007』。出演者は、みうらじゅん、安斎肇、泉麻人……(中略)……俺たちが司会で、バラバラの出演者を仕切るも、ユルユルの3時間。舞台が終わり、そのまま中野でグダグダの打ち上げへ。結局、朝までベロベロのマラソンドリンキング」そう、僕はこのグダグダベロベロの宴席で、博士にかなりしつこく絡んだ、のだそうだ。
後日みうら氏から聞いて知ったのだが、ナニを話したのかまるっきり記憶にない。醜態が記述されていなくてホッとしたが、いや、書く気が失せるほどひどかったのかもしれない。ともかく、この場を借りて博士に謝罪したい。さらにもう1つ、ドキッとしたのは、博士が日夜走り込みをしていた善福寺川公園の一帯は、どうやら我が家のすぐ横っちょのあたりなのである。
己の身体に対する距離感は、優れた闘病記を彷彿とさせるものがある……なんて感想を思い浮かべながら読んでいたら、〈あとがき〉の記述を見て納得した。あまり縁起のいい話ではないけれど、この人がいつか書くであろう闘病記は興味深い。
出版社:アスペクト 書名:筋肉バカの壁─博士の異常な健康 Part2 著者:水道橋博士 定価:1365円(税込み)
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