すさまじい小説。早くも2007年最高傑作との呼び声高い本作を読書日記に挙げないのは寂しいので、発売時期からちょっと経ってしまいましたが紹介させてください。
舞台は20世紀初頭のロシア。第一次大戦での敗退と、続く1917年のロシア革命、ロマノフ朝の終焉という激動の時代を生きることになった若者を描く。
裕福な農業経営者の息子でそれなりの教養も持っていた主人公。状況が一変し、暴力が物言う内戦状態に巻き込まれるが、過去を懐かしむわけでも、今後を占い不安がるわけでもない。大局とは関係なく、ただ生きていくということ。
彼はけだもののように、自分の体を使って、自分の体の関わる範囲から、殺して奪って喰って生きる。「美しい。(…)殺戮が?それも少しはある。それ以上に美しいのは、単純な力が単純に行使されることであり、それが何の制約もなしに行われることだ。こんなに単純な、こんなに簡単な、こんなに自然なことが、何だって今まで起こらずに来たのだろう。」(P.182)
表題のミノタウロスは牛頭人身の怪物。クレタ島のミノス王が、約束の雄牛を海神ポセイドンに捧げなかったことで怒りをかい、呪われた妻がその雄牛との間にもうけた子である。
望まず(望まれず)生まれ、出自ゆえ凶暴で、迷宮に幽閉された生涯を閉じる。戦争状態を望まず望まれずに生きることになった、つまり、ミノタウロスとして生まれ生きることになったその凄まじさを、けして扇情に頼らず、淡々と精緻に描き出すことで際立たせた。
博識をひけらかさず、むしろ染み込ませたような文章は、さながら外国作家の著作を翻訳したかのような重厚さ。日本女性作家の棚前に置くと場違いなくらい、圧倒的な物語。ノイズゼロで読者を20世紀初頭の無秩序へつないでくれ、物語を「体験」させるパワーを持った本。
5月に発売になったが、この特別な本はなかなか平積みからはずせない…のではないかと思うので、きっとまだこの表紙を見つけられるはず。見かけたら、ぜひ手にとってみてください。
(リブロ港北東急SC店 藤原美紗子)
出版社:講談社書名:ミノタウロス著者:佐藤亜紀定価:1,785円(税込み)
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