世間でいう「コマ芝居」というと、座長講演・第一部人情劇・第二部絢爛たる歌謡ショーというのが通りで、かつて自分が観たのもそういった類だった。
万人に満足してもらう舞台とは何か。
新宿コマ劇場の音響を担当した著者・渡部氏は、主役、脇役、裏方を通じた芸のしこみ、厳しさを教えてくれる。
色々な事を普段から自分の「乞食袋」に入れて、いざという時に備えておいた方が良いとは、コマ劇場の常連だった三木のり平の言葉。しかし以前とは違い、入れる物が一辺倒になったのは、素人玄人にかかわらず皆同じである。本書に紹介された美空ひばり、北島三郎以降の世代が、自身の芸を堪能させるのは、並大抵の努力・才能を費やさなければならないだろう。
だが、最近の観客も芸の精進の深さを感じるよりも、手軽で、ぽっと出の物をひいきにする。しかもそれがそこそこ観られるのだから、昔気質の芸はガラスケースに収まる一方である。
現在、市井の人から粋筋の人のインタビュー集・座談のアンソロジー『小沢昭一座談』(晶文社)が刊行中だが、そういった話が小沢氏の前書きではないけれど、たまらなく「いとおしい」。人の嫉妬、不幸譚・失敗話まで肥やしになる。その時代の芸人の様子は世の縮図といっても過言ではないだろう。
ただただ、昔は良かった(「団十郎爺」というそうだが)というのは簡単であり後ろ向きだが、浮き沈みの世の中、また小沢氏のように、新しい大向こうが唸る芸が誕生するかもしれない。
だが良きにつけ悪しきにつけ、芸談・職人談の類がめっきり少なくなってしまったのは、やはり悲しい事である。
また前出の渡部氏は微妙な音に対する感性が鈍くなったという理由で音響製作から身を引いたという。
散り際の花も芸の一つというべきか。
出版社名:講談社書名:「新宿コマ」座長たちの舞台裏著者:渡部清 小菅宏定価:1,470円(税込み)
(大盛堂書店 山本亮)
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