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泉麻人さん <コラムニスト・気象予報士> いずみ・あさと=『週刊テレビガイド』等の編集に携わった後、フリーコラムニストとして独立。『青春の東京地図(ちくま文庫)』『東京検定(情報センター出版局)』など著書多数。今月『泉麻人の東京・七福神の町あるき(淡交社)』が刊行される。
“昭和レトロブーム”の影響か、東京の古い町並みや鉄道風景を集めたような写真集が次々と刊行されている(前に、懐かしいバスの写真集を紹介したはずだ)。その種のものは、大体「昭和30年代」あたりが焦点になっているものだが、この『東京のちょっと昔─30年前の下町風景』(平凡社)はもう少し現在に近い時代。
帯にも、〈1970年代の町と人の記録〉とハッキリ表示されているのだが、僕はページをめくりながら、しばらく「もしや誤植ではないか?」と目を疑っていた。モノクロで撮られているせいもあるのだろうが、ここに収められた町屋とか京島とかの生活風景を記録したスナップは、一見もっと昔の光景に見える。
都電荒川線の線路端で小鳥の世話をする少年、北千住の路地端で兄(あん)ちゃんに散髪をしてもらう男の子、荷車でオモチャを売り歩く千束の老職人……。都電の車両やお祭りの露店に並んだお面のキャラクターに着目すると、これは70年代当時の一齣(ひとこま)に違いないのだが、僕が六本木あたりのディスコでアソんでいた頃、まだ東東京(下町)の界隈には、こんな素朴な雰囲気の子どもたちや、のどかな路地裏風景が存在して いたのだ……と驚かされた。
写真撮影者の若目田幸平氏には〈豆腐屋カメラマン〉と妙な但し書きが付いているが、この人は実際、大井町の周辺で豆腐屋を営まれている方らしい。氏は70年代、雑誌「太陽」が催したコンテストを機にプロの道に入り、当時の編集者だった西田成夫氏が、写真のキャプションと解説を担当している。
「若目田さんは気さくな人間だ。穏和な表情と物腰。眼が優しい。そして、話が上手で面白い。一般に下町の人はおしゃべりが好き。たった2~3分の会話で、相手は警戒心を解き話に乗ってくる。それに加えて、全身から放射される庶民のオーラが魅力的」と、西田氏は人物評を記している。
また、30年後のいまどきの状況についても、切ない言及がある。「犯罪者や好奇の目で見る人やロリコンやマナーが悪い人が増えたせいで、住民がよそ者に対し警戒心を抱くようになった。また、あけっぴろげ派よりプライバシー派が増えた。そのため、残念ながら撮影拒否が当たり前になっている」これは町歩きのときにカメラを向ける、シロートの僕も痛感する話である。
各写真の中で、僕がとりわけグッときたのは、北品川の路地裏でハゲ頭のおじさんと中学生の少年たちが並んで、祭りの笛の練習にいそしむショット。1点のカットから、小津安二郎や成瀬巳喜男が描く小市民映画のドラマが想像されてくる。
出版社:平凡社 書名:東京のちょっと昔─30年前の下町風景 著者:若目田幸平 定価:2100円(税込み)
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