鈴木光司さん <作家>すずき・こうじ=『楽園』で作家デビュー。『リング』シリーズが計800万部のベストセラーとなり、ハリウッドで映画化。欧米を中心に講演活動を行うほか、政府の諮問機関「少子化への対応を促進する国民会議」委員を務める。著作が世界20ヶ国語に訳されている。最新刊『なぜ勉強するのか』(ソフトバンククリエイティブ)
小学校のときの先生が大林宣彦だったらよかったのにな、と思う。なぜならば、彼は、今の若者たちに責任があると自負し、子どもを一人前の人間として扱ってくれるからだ。相手が子どもだからと、上からの目線で見下ろすのではなく、同じ場に立って語ってくれそうな気がする。
大林さんは、この本の中で、大人たちが子どもに理解されんがために「子ども向けの話しをする」ことの無意味さを執拗に語っている。その通りだと思う。いずれ大人になる子どもたちは、大人の話しにこそ興味を持つもの。大人は自信を持って、子どもたちを大人の世界に巻き込んでしまえばいい。
ただ気になるのは、大林さんの目から見える印象を、あたかも事実のように扱っている箇所が多々見られる点だ。たとえば、『なぜ若者は老人に席を譲らなくなったのか』というタイトルはいかがなものか。本文中に、現代の日本の若者が老人に席を譲らなくなったという記述があるわけではない。ただ、未来への希望を失ったチェルノブイリの若者が、自分が老人になる姿がイメージできないというエピソードを取り上げているに過ぎない。このタイトルはいたずらに誤解を与える。
今の若者たちが老人に席を譲る率は、昔に比べて圧倒的に増えていると、ぼくの目には映る。あるいは、本文中に「かつての日本人は、物事を大きく捉え、全体を見渡すことができました」とある。その根拠はどこにあるのだろう。ぼくの意見は逆だ。日本人は昔から、「論理的、総論的な考え方」あるいは「大局的な視点」を持ち得ず、その欠点が無謀な対米開戦に繋がったと分析している。一冊の本の中に、共感を覚える部分もあれば、批判したくなる部分もある。それもまた読書のおもしろさだ。
出版社:幻冬舎書名:なぜ若者は老人に席を譲らなくなったのか著者:大林宣彦定価:798円(税込み)
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