ふと目にとまる本がある。
書店に勤め、毎日毎日、本に囲まれているのに、そうした瞬間は突如訪れる。僕等書店員とて、四六時中、本との出会いを求めているわけにもいかない。新刊の詰まった梱包をあける作業。それとて、次々と本を取り出しては瞬時に仕分ける、いわば機械的作業を、脳は要求してくるに過ぎない。なのに、とある1冊を手に取った刹那、ロボットと化した僕の手は、完全に運転を止めてしまった。
『金色の野辺に唄う』・・・ 『金色の野辺に唄う』・・・なんて美しい響きだろう。
生まれ育った片田舎の田園風景が、白昼夢のように色鮮やかに僕を取り巻いた。
物語は、九十を超えた老女・松恵が、まさに息をひきとろうとしているところから始まる。それを看取る、東真(松恵の曾孫)、美代子(松恵の孫の妻)、史明(近所の花屋店員)、奈緒子(松恵の娘)の4人には、それぞれ松恵に救われた過去があった。自分にないものを欲して、彷徨う4人。松恵はそんな4人の満たされぬ思いを受け止め、支えてきたのだ。
勿論、松恵自身にも暗い過去はある。だが、それさえも受け入れ、今、松恵は彼岸に旅立とうとしていた。やわらかい光に満ちた、大地の葬送の唄に見送られながら・・・
結局、人は人との繋がりの中でしか生きてはいけないのだろう。人を傷つけるのが人ならば、救うのもまた、人なのだ。そして人は皆、様々な「業」を抱えながら日々を生きている。それを引きずって生き抜くしかないのだ。そうと受け入れた時、世界は光溢れる、荘厳ともいうべき美しさに煌くのかもしれない。
小説に季節があるならば、タイトルから想像されるとおり、これは秋の小説だ。稲穂が金色に輝く秋。だが秋まで待つなかれ。春には春の、夏には夏の光彩があり、唄があるに違いない。読む人の数だけ、その美しい世界は存在しうるはずだから。
出版社:小学館書名:金色の野辺に唄う著者:あさのあつこ定価:1,470円(税込み)
(紀伊國屋書店新宿本店 吉野裕司)
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