世界でいちばん贅沢な旅とはどういうものだろう?シェフお抱えの地中海クルージングか、豪華客船による世界一周か、ついに実現らしい宇宙空間一番乗りか。
金さえあれば、という「成金旅行」はオヨビじゃない。ため息の出るような贅沢さは、魂の満足あってこそ。
本書は、著者の分身らしい「誇大妄想狂」ならぬ「古代妄想狂」(=パレオマニア)を自称する男が、大英博物館へ通い、気に入った壁画や像があるとその発掘場所へ旅をする、それを繰り返す、というなんとも贅沢な13の旅が載っている。
パレオマニアの男は下調べが得意だそうで、博物館のブックショップで参考書を買い、自分のための勉強をする。ここにまず学問の豊かさがある。そして現地に入り、古代を想像し、その土地のいまの暮らしぶりと比較する。ここに途方もない時間の芳醇さがある。
もちろん「幸せな場所」ばかりではない。メソポタミア文明を見に行ったイラクは、男が去ってすぐ、アメリカによる空爆が始まり激戦地となった。遺跡は破壊され、知り合った多くの気のいい人々が死んだ。
しかし、男はこれらの旅を書き、未来に残そうとする。建造物は消滅しても、旅人の思いは破壊できない。ここに書物の力が、人のエネルギーがある。旅を通して、文明、本、人間に心揺さぶられる、世界でいちばん贅沢な本だ。
(青山ブックセンター六本木店 間室道子)
出版社:集英社書名:パレオマニア著者:池澤夏樹定価:900円
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