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『左岸』(江國香織)

2008年11月13日

Photo 物語のテーマは「喪失」。冒頭で主人公の茉莉は、十歳にして決定的なものを失う。

 両親も、幼なじみも、その後出会う男たちも満たすことのできない、心の底なしの穴。

 それは「傷」というありきたりの形をとらないし、「悲しみ」というわかりやすい感情におさまることすらない。とほうもないうつろ、名づけようのないからっぽ。

 茉莉はそれを埋めようとあがいたりしない。誰かに、何かに救いを求めたりもしない。

 ほんの子供なのに、彼女はその喪失感とともに生きようとするのだ、超然として。

 幼なじみはそのうち世界を放浪し始める。たくさんの男たちは茉莉と恋に落ちるけれど、現れては消える。両親だって、いつまでも彼女と一緒にいてはくれない。

 いちばん最初のいちばん大きな喪失だけが、たえず茉莉に寄り添い、話しかけ、手を伸ばせばそこにいる。それは執着や妄想といったネガティブなものではない。茉莉が生き生きと歩み続けることで、失われたものは呼吸し、あたたかみを持ち、命あるものと同等の輝きを帯びる。

 人は、これほどの喪失を抱きながらも、生きていける。その力に、読者は圧倒されるだろう。

 この茉莉の人生に伴走する、辻仁成著の『右岸』も同時発売。合わせて読めば、その川は幅広さ、深さを増す。

(青山ブックセンター六本木店 間室道子)

出版社:集英社
書名:『左岸』
著者:江國香織
定価:1,785円(税込み)

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