素数とは、1とそれ自身でしか割り切ることのできない数のこと。本書は、自分たちを素数のようだと感じている少年と、少女の物語だ。
数学の天才で自傷癖のあるマッティア。美しいものに対する目が人一倍開かれていて、自身は拒食症を抱えているアリーチェ。
彼らはそれぞれ、過去にからだの一部がもぎとられるような喪失を体験しており、マッティアはその罪の意識に、アリーチェはその原因への憎しみのために、深く傷ついている。
彼は世界を拒絶している。彼女は世界から拒絶されたと思い込んでいる。
そんな二人が出会い、大人になってゆく。
彼らを繋いでいるのは若者らしい恋の感情などではなく、痛みだ。本能的にお互いの傷を察し、それに共鳴している。それはどんなに危険で、またどんなに切実なことか――。読者は、はらはらしながら読み進むだろう。
二人はなぐさめ合ったり寄りかかったりしない。心の傷の理由は何なのか、その深さはどれくらいなのか、さぐられるのは自分が一番耐えられないことだからだ。
マッティアとアリーチェには、手をふれずにワルツを踊っているようなイメージがある。けっして熱く抱き合うことなく、しかし絶対に離れず、お互いを思い合う。なぜなら彼らは素数なのだから。独特で、孤立し、それゆえに輝く。
この、繊細なレースを編み上げるが如き物語は、今年27歳になるイタリアの物理学者が書いた。
ひとつが生まれ、つらなり、無限へと続く、美しいもの。数字と愛は、とてもよく似ている。
(青山ブックセンター六本木店 間室道子)
出版社:早川書房書名:『素数たちの孤独』著者:パオロ・ジョルダーノ定価:1890円(税込み)
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