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書店員のオススメ読書日記

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4620319546_2 女優・岡田茉莉子は舞台で共演した若き日の吉右衛門を評して、「歌舞伎俳優であることを少しも感じさせない。それでいながら年齢のわりには懐の深い芝居をする人だった。(中略)演技をしながらも、どこか余裕があるのが吉右衛門さんの魅力でもあったのだろう」(『女優 岡田茉莉子』文藝春秋)と記している。

 また、歌舞伎義太夫の語りである竹本葵太夫は自身のHPで、最近の彼の舞台は身を削ってまで務めておられると感嘆している。
 いくら歌舞伎、梨園の名門の御曹司でも、大成するとは限らない。そのプレッシャーに耐え、本人の天分、努力が物をいう世界であるが、一観客からしても吉右衛門の舞台は、その天分、努力に裏打ちされた懐の深さに,感嘆しながらも安心して観ることができる。それが「吉右衛門ブランド」なのであろうが、ことに最近は全体を見渡し、個人の演ずることに加えて、芝居、劇場の様子を最高の歌舞伎へ高めようという気迫が、まざまざと感じられてならない。
 本書は彼の人生、芝居観を巧く伝えているが、もちろん順風満帆の人生ではなく、名跡を継いでしまったプレッシャー、所属していた歌舞伎だけを演じていれば良かった松竹から、東宝へ父と兄(先代・当代の松本幸四郎)とともに移籍して、歌舞伎とは毛並みの違った劇、映画に出演する苦悩と新たな境地。松竹復帰後の舞台や、もちろんTVドラマの「鬼平犯科帳」。

 役者を辞めたいと思っていた若い頃から、役者を天職と知ることができたという六十代の今。現在、心技体が充実していることは、本書口絵の源平時代に材料を取った「石切梶原」の主役、梶原景時に扮する彼の、刀を眺めている姿に、強く感じることができるのだ。

出版社:毎日新聞社
書 名:二代目 聞き書き中村吉右衛門
著 者:小玉祥子
価 格:1890円(税込)

(大盛堂書店 山本亮)

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