なんとなくあらましは知っているのに“先を知りたい”とページをめくる手が止まらない。これが素晴らしいノンフィクションの証なのだろう。
1963年。東京の下町で四歳の男の子が誘拐された。本書はこの「吉展ちゃん誘拐事件」が決着するまでを描いている。
身代金の受渡しの際の犯人取り逃がしに憤り、吉展ちゃんの家族の悲しみに胸を痛め、警察の犯人逮捕への執念に舌を巻く。しかし私は小原保が犯行に至った背景には、あまり心を入れて読むことができなかった。どうしてだろう。遺族の方でさえ「犯人の側にもかわいそうな事情があったことを理解できた」と言っているのに。
それはきっと私が“本当の貧しさ”を知らないからだろう。戦争が終わっておよそ20年、高度経済成長のかたわらで、極貧にあえぐ人々がいたことをうまく想像できないのだ(もちろん私の想像力の欠如が大きな要因だ)。戦争や貧困を知らない世代だからこそ、私達は様々なことを見て、聞いて、知って、自分の頭で考えていかなければならない。本田さんの言うところの「欲呆け」した「愚民」にならない為にも。
(リブロ福岡西新店 奥原未樹子)
出版社:筑摩書房書 名:誘拐著 者:本田靖春定 価:840円(税込み)
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