現在、ガイ・バートの小説は三作しかない。
ソーラ・バーチが主演した映画『穴』の原作となったデビュー作『体験のあと』。そして本作『ソフィー』。今年日本でも刊行予定『The Dandelion Clock』の三作である。
“早熟の天才”と言わしめた著者はデビュー作を18歳で、本作も大学在学中に書き上げたという。そんな著者が描いた『ソフィー』とはどんな作品なのか-天才として生まれるがそのことを隠し続ける姉とごくごく普通の男の子である弟。そんなふたりが見つけた自分たちだけの秘密の居場所を巡るいとおしい物語。のはずが、私たちを待ち構えているあまりにも残酷な結末に衝撃が隠せない。
今と過去の交錯した文章構成-過去は回想シーンであるがその使用方法は決してありきたりではない。普通、回想は語り手が自身の心情を見つめ直したり、「現在」を説明するために用いられる。しかし、この小説では語り手であるマシューは結局何も説明していない。結末も大まかな事実が明らかになったに過ぎず、そこにあるはずの姉弟の心情は一番重要なところでわからないままである。読み手によって二人の心は時空を越えて存在し続けている。
身近な人間同士でも完全に理解しあえない悲しさ、病的なまでに人を思うことで生じてしまう狂気、子供時代に誰しもが味わった心許ない感覚が読み終わった私たちの全身を包み込む。
ソフィーは言った“目に見えないものは忘れ去られる”と。確かに、子供から大人になり、日々誰かに頼ることは段々なくなっていく。しかし私たちは無条件に誰かを信じ、愛した幼少期の記憶を頼りに生き続ける。だからこそ大人へと変化していける、ゆっくりと確実に。
埋もれ続けた名作、待望の文庫化。豊かな感性で多くの作品を手がけてきた黒原敏行先生の訳にも大注目な一冊。
(青山ブックセンター六本木店 高橋和也)
出版社:東京創元社書 名:ソフィー著 者:ガイ・バート<訳:黒原敏行>定 価:903円(税込)
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