評論家の坪内祐三は、浅田次郎を例に上げ、叩き上げできた人と比べて、及ばない部分が自分にはあるのではないかと、どこかで書いていた。
やはり「叩き上げ」の書き手は生い立ちやその後の人生経験から、文章、小説の上でにじみ出るものが、何か違うと感じられる。
それは、i-podで聴く音楽と、レコードのアナログ盤をスピーカーから聴くそれと似ている。
前者の様な正確無比なものと、後者のえも言われぬふっくらとした感じは、読者の好き好き勝手であるが、今流行りの臨機応変に、パズルの様に組み合わせていける話も、確かに面白い。
だが、型にはまった理屈ではない、深い物語を書ける人が、少なくなってしまったのは、幸か不幸か。
短編小説を書くことは長編小説より難しいと言われている。短い分量で種で勝負をし、作者の真剣勝負が味わえる、素材その物の味だ。
これだけ著者の作品が多いと、どれが良いか、読者によって違うだろうが、本書の場合、小気味良い調子の「天切り松」シリーズ(集英社文庫)を思い起こさせる、吉原の花魁を主人公とした表題作や、夫婦の離婚の後の以外な結果を描く「供物」、老婦人の陰徳をめぐる話「冬の星座」、そして「シューシャインボーイ」。
まだあるが、恐るべきは「外れ」がない。だが、読者をひれ伏せさせる様な、緊張感がみなぎっている訳ではない。自然体である。著者が持つ素材のエキスがみなぎっている。結果、著者の世界にくるみ取られてしまうのだった。
本書を読んで著者と同じく短編小説の名手に、海老沢泰久を思い起こさせたが、もうこの世にはおられないことが、何とも物悲しい。
出版社:文藝春秋書 名:月島慕情著 者:浅田次郎価 格:570円(税込)
(大盛堂書店 山本亮)
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