本屋さんへ行こう!

書店員のオススメ読書日記

本文です
前の記事

           どのみち  Photo_3「書くこと」は「カクこと」=自慰行為に過ぎないわけだから、そこに何がしかの意味や魅力を「発見」しようとすることは、そもそも虚しい。逆説的でなく、文学を読む際のかかる虚しさを再認させてくれるという意味で、本書は文句なしに素晴らしいのである。
 しかし、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売上を確認して、驚倒した。

 おそろしく売れていない…。個人的に、2009年のベストと周囲に吹聴していた。とんだ辱めを受けた気分…。死にたい…。
   

 木下古栗と書いて〈キノシタフルクリ〉と読む。81年生まれ。「無限のしもべ」で第49回群像新人文学賞を受賞してデビュー。その後も「教師BIN☆BIN★竿物語」などの傑作を書き下ろすも、デビュー作すら単行本化されることなく今に至り、ようやっとこれが、待望の処女作品となる。要するに、文芸誌でしか読まれないのだから、名も知られないわけだ。

  しかし、なぜ私が見も知らぬ年下の作家の紹介を今この場でせねばならないのか。検索社会の現在、そうした情報はググッたりウィキったりすれば、たちまちに得られる…。だから、私の役割としては最早、本書に手放しで最大級の賛辞を送り、怪力の文芸担当者に然るべき圧力をかけ、平積みによる陳列販売を半永久的に継続してもらうという、ささやかな運動…抵抗にしか残されていない。しかし、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売上を確認して、驚倒した。おそろしく売れていない…。個人的に、2009年のベストと周囲に吹聴していた。とんだ辱めを受けた気分…。死にたい…。結局、あっさりと返品されて、今や棚には1冊しか残されていない。その稀少性が、消費者の飢餓感を喚起すれば良いのだが…。
   

 実際、他人に本を薦める際の栗シェ(クリシェ)として、「読んでみて!絶対に損はさせないから!」というものがあるが、口が裂けても、そのようなことは言えない。端的に、相手の時間や金銭を損させることになるからだ。『ポジティブシンキングの末裔』は、われわれの生活の何にも奉仕しない。ただ、読まされた時間の
無駄を恨み、払った金銭に釣り合わぬ、その無益さに怒り狂うよりない。それでも、「不良債権としての文学」「文学の終わり」はまだしも、「小説のことは小説家にしか分からな」かったり「日本語が滅び」ようとしてさえいる現在、本書の過剰と無為には、幽かな批評性を感じざるを得ない…。感じなくもない。

 そう確信して、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売り上げを確認して、驚倒した。おそろしく売れていない…。個人的に、2009年のベストと周囲に吹聴していた。とんだ辱めを受けた気分…。死にたい…。
 29の中短篇に横溢する、性と暴力とナンセンス、そしてメタフィクション。本書の紹介にあたっては、要約にも深読みにも意味はない。登場人物の全員が妄想上殺害され、われわれは長い射精の終わりを目撃して、憤死する。そこから先は、嘆息ののち、閉じた本書を壁にぶつけるも良し、売り払うのも良し、ただ燃やすのも良し、だ。
   
   また、群像2月号(2010年)に発表された中篇「夢枕に、獏が…」も素晴らしい。ぜひ読んで欲しくない。ただただ時間を無駄にするだけだから…。本当に。そんなことは、題名を見ただけで分かりそうなものだ。

 同じ群像では、佐々木敦氏による『ポジティヴシンキングの末裔』の書評も掲載されている。フルクリ一読、誰もが感じずにはいられない、中原昌也氏の著作との関連性、というか、模倣にも言及されているし、それを超える可能性や期待もほのめかされている。そうした可能性や期待を、私もささやかに感じているので、文芸書担当でもないのに本書の我が社全体における売上を確認して、驚倒したのだった。おそろしく売れていない…。しかし、個人的に、2009年のベスト。文句なし。YES
   
  (ジュンク堂書店 小杉悠平)
   
出版社:早川書房
書名:ポジティヴシンキングの末裔
著者:木下古栗
価格:1890円(税込)

前の記事

当ブログの記事へリンクを張った方はトラックバックをどうぞ。ただし、当ブログの編集スタッフによって事前に確認した後で掲載します。基準は<トラックバックに関する編集方針>をお読み下さい。

  • 本を薦める行為について[自然にいきたいね から]
    ■別便で書いた書店員のブログ、つながり■★「ポジティヴシンキングの末裔」(木下古栗)2010年2月2日byジュンク堂書店 小杉悠平別日記同様、これは、讀賣新聞の「本よみうり堂」の「本屋さんへ行こう!書店員のオススメ読書日記」の中のものです。このブログの書き手の......…続きを読む
  • 受信: 2010年02月09日18時14分

売れ筋の本からマニアックな専門書まで、本のことを知り尽くしている書店員さんがオススメの本を紹介する読書日記。書評だけでなく、時には誰も知らない書店の裏話などが聞けることも!?読書好きな人必見のブログです。

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29