今まさに、私は一つの「学問」が誕生する場面に立ち会っているのだという思いを抱く。
本書では、一人の学者が歴史家「阿部謹也」になっていく過程が著者自らによって明らかにされる。
小樽商科大学時代の研究と思索、ドイツ留学での研究テーマの発見、そして中国思想家西順蔵氏との交流を通じての人間的内面の深まりが描かれる。
阿部謹也は孤独の人だ。
「自分の内面に深く降りて行って何故自分がこのような課題に関わらなければならないのか」と言う問題意識を研究の出発地点に置く点において、
「学問は一人で営むものだ」という姿勢において孤独なのである。
しかし「自分の内面」に真摯に向き合うと同時に「外」の世界を見る目は、限りなく開かれている。学会や大学という閉鎖的な空間にとどまらず、人種や職業を限らず在野の人々と幅広く交流する。
「内」への対峙と「外」へのまなざしから生涯を通じての「世間」とはなにかという研究課題が生まれ、
個人・差別と賤視などの諸問題を扱う阿部社会史の枠組みが構築されていく。
「ハーメルンの笛吹き男」に代表される彼の業績に通じていない読者にとっては多少、わかりづらい部分もあるが、「学ぶ」とは何かを考える上で、とても刺激的な本である。
受験戦争から抜け出し、真の「学問」を学び始める大学一年生に一読を進める。
いやむしろ、象牙の塔に引きこもる研究者たちにふさわしい書物かもしれない。
出版社:洋泉社
書名:北の街にて ある歴史家の原点
著者:阿部謹也
定価:1,575円(税込み)
(ジュンク堂書店 新潟店 澤山建史)
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