「興行を打つ」というのは、今では聞かない言葉になってしまったが、「博打を打つ」など「打つ」ということは、そこに今までの人生をぽんと賭けて勝負、という侠気が見え隠れしている。
永六輔は浅草での幼年時代、浪曲界の大立者、広沢虎造の興行を巡ってのいさかいを、次の様に記している。
「山口組二代目が斬られたのは、この仁丹ビルの中である。(中略)出入りの頭が現場をみていたように父に話しているのを、そばで聞いていた。」 (『昭和 僕の芸能私史』朝日新聞社)その後、この頭は「芸人は斬った張ったがないと一人前じゃない」と締めるのだった。
今は知らないが、芸能人が興行を打つということは、その筋の人達とは切っても切れないことで、戦後、いわゆる「筋を通さない」人達が、ギャラなどを含めて芸能人達とのトラブルを、頻発させていたなか、山口組の三代目、田岡一雄は「堅気に一切迷惑をかけない」「芸能人達へは真摯に接する」をモットーに、美空ひばり、力道山を中心とした一時代を築きあげた。
本書は「神戸芸能社」という山口組傘下の芸能プロダクションを舞台にしたノンフィクションだが、田岡の庇護のもと、社員や芸人、歌手のプライドが見え隠れし、戦後の混乱期において、純粋にお客に夢や希望を与えるという,信念に応えていった記録でもある。
だが、高度経済成長に入っていくと、三国志宜しく、組ごとの抗争や、警察の取り締まりによって、一気に「神戸芸能社」は衰退してしまう。それは一時の仇花の様な世界にも思えるのだ。
また、名古屋で興行を打った2回目のステージの前に、神戸芸能者の社員からギャラの支払いを迫られ、後で、と興行を仕切っていた組員が言ったところ、社員がなら幕は開けないと返し、組員が「しゃあない」と金を払う件は、同じ傘下とはいえ玄人と堅気の区別をことのほか意識した、田岡の考えが徹底されていた様にも思えてならない。
出版社:双葉社書 名:実録神戸芸能社著 者:山平重樹価 格:1890円(税込)(大盛堂書店 山本亮)
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