最近ではテレビでおなじみ、ロバート・キャンベル先生のお話を聞く機会があり、「数」の話題になった。「三大テノールとか、五十三次とか、なんとか百選とか百景とか、日本人はモノを数えて積み上げるのが好きですね」と先生。そして「終わりが見たいんでしょうか」と、ぽつりとつけ加えられたのが、非常に印象的だった。
たしかに我々は、最初に数をはっきりさせ、その最後まで到達するのを楽しみとする。「数えきれないほどの富」とか「永遠なる命」というのに口ではあこがれつつ、茫洋とした果てのなさは、日本人には不安や恐怖を呼び起こす。
「いくつある」と明らかにし、数え、けりをつけ、安心する。だがそこにも、底なしの魔は潜む。
本書は京極版「番町皿屋敷」。数にとりつかれた男女が登場する。十なら十、百なら百のものを数えても、なぜか「足りない」という感じに襲われる男。自分は莫迦だから、というあきらめがあり、数えまちがいばかり起こす女。欲しいと思ったものはモノであれ人であれ必ず手に入れる女。終わりが見たいどころか、自ら終わりを起こしてやると激高する破滅型の男。
物語は「何もかもが終わったシーン」から始まる。番町の皿屋敷は朽ち果て、女中の幽霊が出る、という噂だ。しかしそこで何が起きたのか知るものはなく、いくつもの矛盾した話がこだまのように飛び交う。庭のはずれで、井戸だけが口をあけている。さあ、ここから、物語は始まる。
「空が好きだ、数えられぬから」というある人物の言葉が、本を閉じた後、長く、ものがなしく漂う。
(青山ブックセンター六本木店 間室道子)
出版社:中央公論新社書 名:数えずの井戸著 者:京極夏彦定 価:2,100円(税込み)
当ブログの記事へリンクを張った方はトラックバックをどうぞ。ただし、当ブログの編集スタッフによって事前に確認した後で掲載します。基準は<トラックバックに関する編集方針>をお読み下さい。
売れ筋の本からマニアックな専門書まで、本のことを知り尽くしている書店員さんがオススメの本を紹介する読書日記。書評だけでなく、時には誰も知らない書店の裏話などが聞けることも!?読書好きな人必見のブログです。
眞鍋かをりさんや泉麻人さんのブログも公開中