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書店員のオススメ読書日記

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Photo_5 最近ではテレビでおなじみ、ロバート・キャンベル先生のお話を聞く機会があり、「数」の話題になった。「三大テノールとか、五十三次とか、なんとか百選とか百景とか、日本人はモノを数えて積み上げるのが好きですね」と先生。そして「終わりが見たいんでしょうか」と、ぽつりとつけ加えられたのが、非常に印象的だった。

 たしかに我々は、最初に数をはっきりさせ、その最後まで到達するのを楽しみとする。「数えきれないほどの富」とか「永遠なる命」というのに口ではあこがれつつ、茫洋とした果てのなさは、日本人には不安や恐怖を呼び起こす。

 「いくつある」と明らかにし、数え、けりをつけ、安心する。だがそこにも、底なしの魔は潜む。

 本書は京極版「番町皿屋敷」。数にとりつかれた男女が登場する。十なら十、百なら百のものを数えても、なぜか「足りない」という感じに襲われる男。自分は莫迦だから、というあきらめがあり、数えまちがいばかり起こす女。欲しいと思ったものはモノであれ人であれ必ず手に入れる女。終わりが見たいどころか、自ら終わりを起こしてやると激高する破滅型の男。

 物語は「何もかもが終わったシーン」から始まる。番町の皿屋敷は朽ち果て、女中の幽霊が出る、という噂だ。しかしそこで何が起きたのか知るものはなく、いくつもの矛盾した話がこだまのように飛び交う。庭のはずれで、井戸だけが口をあけている。さあ、ここから、物語は始まる。

 「空が好きだ、数えられぬから」というある人物の言葉が、本を閉じた後、長く、ものがなしく漂う。

(青山ブックセンター六本木店 間室道子)

出版社:中央公論新社
書 名:数えずの井戸
著 者:京極夏彦
定 価:2,100円(税込み)

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