一等航海士、時には船長として多くの船に乗り、海の世界を見つめてきたコンラッド-そんな彼が描いた船と自然、人間の物語。どの話も海にゆらゆら浮いている船のように決して一直線には進まない。
どの登場人物も精神状態、置かれた状況、結末、全てにおいて不安定極まりない。「文明の前哨地点」では文明人が圧倒的な大自然に翻弄され狂人となり、「秘密の同居人」では他所者(よそもの)という心的ストレスから脱し、かろうじて自尊心を保つ。
また、「ある船の話」では自身の行動にたいしていつまでも自問自答し続ける。そんな不規則な展開・病的なまでの心模様の中でも、男たちは生き抜くために真実だけを見つめた。本能とも言える観察力でもって自然と他者を見つめ、真実を探っていく。そしてその行為は自分を取り戻すことへの繋がっているのだ。
危機的状況の中でどれだけ光を見出せるのか-荒れ狂う海同様、厳しい現代社会の波にさらされている私たちにとっても考え深いテーマにちがいない。著者の描いた人物たちは真に“時代”を生きていた。そして、彼らは“今”の私たちをも見つめているのである。
世界と人間の認識というコンラッドの作品の根源がしっかり収められた短編集。井上義夫の翻訳で贈るオリジナル編集版文庫化!
(青山ブックセンター六本木店 高橋和也)
出版社:筑摩書房書 名:コンラッド短編集著 者:コンラッド訳 者:井上義夫定 価:903円(税込み)
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