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『悪貨』(島田雅彦)

2010年12月27日

Photo_2 『「悪」と戦う』『悪と仮面のルール』『悪の教典』の刊行、『悪人』の映画化など、今年はちょっとした「悪ブーム」だったが、中でも本書が一番面白かった。

 物騒なもので世界を混乱させてやろうとたくらむ時、身近に撒く奴はいないだろう。自分が愛飲しているビールの工場のタンクとか、愛娘がよく行く公園の砂場に毒物を入れるのは馬鹿である。

 だが、どうしても「自分の手に回ってくるかもしれないもの」に仕込まねばならない。それが偽札だ。世界に名だたる出来のいい偽札は、作った本人にも見分けがつかないらしい。「顕微鏡で見ると、かすかな偽の印がある」ぐらいの精巧さだそうだが、買い物でおつりをもらうたびそんな道具を取り出す挙動不審をやらかしたら、たちまち御用である。

 自分がババを引かずに大量の精巧な偽札を出回らせるには?この本で描かれる狡猾で大胆な手法に息を飲む。それはもはや金儲けのためではない。ゲーム、復讐、そして・・・。

 冒頭、キリストによく似た浮浪者が紙袋いっぱいの現金を拾い、有頂天で使いまくる。それが偽札だったことから、話は転がり始める。ミサイルとか細菌汚染とかサイコパスとか大災害とかの脅威は人を恐れさせるだけだが、「金による脅威」にはどこか、うさんくささや滑稽さがある。「それを前にすると、多かれ少なかれ誰でも狂ってしまう」という非常に身近な人間くささがつきまとうからなのだろう。

 スピーディーに展開するこの極上エンターテインメントは、謎の青年実業家、美人すぎる刑事、地域通貨を流通させているコミューンの代表、偽札を見分ける天才捜査官などが入り乱れ、一気にラストページまでいかせる。愛、金、命。あなたの順番は?

(青山ブックセンター六本木店 間室道子)

出版社:講談社
書 名:悪貨
著 者:島田雅彦
定 価:1,680円(税込み)

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