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書店員のオススメ読書日記

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328461_2 朝吹真理子のデビュー作と聞いて楽しみにしていた一冊である。

私が初めて、彼女の作品の世界を体験したのは新作「きことわ」だった。

『新潮』9月号に掲載された「きことわ」がにわかに話題となり、ふだん文芸誌を読まない私もつい気になって何年かぶりに買って読んでみたのだ。

15歳の永遠子と8歳の貴子の夏休み、そして25年後の再会。時間と思考が絡まり溶け合いそうになったかと思えば、何事もなかったかのように話が進む。目がくらんだ。

「きことわ」の約1年前に『新潮』に掲載された今作が著者初の単行本である。

この作品では、主人公らしきものが“ひと”や“ひとでないもの”に変わってゆく。

川岸のソメイヨシノから舞台の舞人へ、行き着く先のわからない夜の川で船頭をすれば、

この世でない世界にたどり着き生きてもいない死んでもない時間を過ごし…ふと、水溜りにいつも煙突の幻を見てしまうサラリーマンになったかと思うと、無人島で死ぬに死ねない女に“戻って”しまった、とくる。

本を読んでいれば感情移入したり共感したりと、読み手が主人公の気持ちを体感することはあるが、そのどれとも違う新しい読書体験であった。

知らぬ間に文字の流れに取り込まれてゆき、心地よい時間が流れる。この本は書かれた「跡」であり、読まれた「跡」なのだと思う。

読むことに対して「はみだしてゆく。しかしどこへ―」と始まり、最後は書くことに対して「はみだしてゆく。しかしどこへ―」と結ばれる。書くことを始めた著者自身の思いなのだろうか。ゆっくり本を閉じて、読書の余韻に浸りながら今度はどんな体験を与えてくれるのかと楽しみに待っている。

(ブックファースト梅田店  藤原 洋子)

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