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 本書は欧米の伝説「取り替え子」の物語。子鬼(ホブゴブリン)が人間の子供をさらい、自分たちの一人と取り替えてしまう。

 ユニークなのは、ホブゴブリンたちが子鬼の子供の集団であること。その数は一定で12人。彼らはある子供に目をつけると、顔かたちはもちろん、しぐさ、癖、周りの情報まで全員でリサーチをする。そして準備が整ったところで、すばやく入れ替える。さらってきた人間の子は儀式をして、自分たちと同じホブゴブリンにしてしまう。そして「人間の子と取り替えられる日」を順番待ちさせる。つまり、人間の子がホブゴブリンになり、それがまた人間の子供として誰かと取り替えられる。それをえんえんと繰り返しているのだ。10年も、20年も、100年も。

 ふつうの「取替え子の話」は、悪魔とか魔術師とか「大人である何者かが人間の親に仕掛ける悪さ」であるが、この本の子鬼たちは誰かの手先ではない。「あたたかな家、家族が欲しい」という子供の熱望そのもので動いている。それがまず、切ない。

 7歳のヘンリー・デイはある日ホブゴブリンたちにさらわれ、彼らの一員として「エニデイ」という名前をもらい、そのまま成長せず、ともに暮らすことになる。一方人間界にもぐりこんだ子鬼は、ヘンリー・デイとして父、母、妹に囲まれて大人になってゆく。

 元子鬼だったヘンリー・デイも、元人間だったエニデイも、そのうち自分の出目を忘れていく。しかし残る違和感。時々生じる、強烈な過去への思い。さらに、ヘンリー・デイになった子鬼は、子鬼になる前、どんな人間だったのか?

 物語のラストで、ヘンリー・デイとエニデイは対決する。それは「本物vsにせもの」でも「どちらが正しいか」でもない。人間vsホブゴブリン、大人vs子供、過去vs現在という何重もの立場、思いの戦いだ。そこに勝ち負けはない。ただ、この向き合いを経なければ、お互い前へは進めない――そんなせめぎあいのシーンである。

 ファンタジーはふわふわした避難場所を与えてくれるものと思われがちだが、上質な作品は「今、ここで立たなければどこで立つ」という現実を読者につきつける。空想の力の本質は、実はここにあるのではないか。

(青山ブックセンター 間室道子)

出版社:武田ランダムハウスジャパン

書 名:盗まれっ子

著 者:キース・ドノヒュー/著 田口俊樹/訳

価 格:2,415円

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