長崎県五島列島の中学合唱部を舞台とした、全国合唱コンクールに参加するまでの数ヶ月間のできごとを描いた物語。
合唱部に美人の臨時顧問が来ることになり、それに釣られ男子生徒が増えるところから物語が始まります。初の混声合唱で混乱しているうえに、真面目に練習しない男子と、女子部員が対立。更には、女子部員の中でもしっくりいかない部分が出てきてしまいます。
物語は、ある一人の女子部員と男子部員の二つの視点で交互に語られます。女子部員の側は、部活における男子との対立、男子に味方する女子との不和などを中心に進み、男子部員の側では、自分の家族のこと、クラスにも部活にもあまりなじめない自分のことが中心に進んでいきます。そのいずれも、きっと誰もが中学や高校時代に一度は経験したことがあるであろう感情で、自分が中学生だった頃を思い出して、胸をぎゅっとつかまれたような気持ちになりました。
特に女子部員の、「男子は不真面目!」という苛立ちがあまりにリアルで、自分も一緒に物語の中の男子生徒に腹を立ててしまうくらい。作者は男性なのですが、どうしてこんなに女子部員の気持ちがうまく描けるのだろう、と感心してしまいます。
一方、男子生徒のパートで描かれる、自分の居場所が定まらない漠然とした不安も、自分が思春期の頃に感じた思いに非常に近く、気持ちが揺り動かされました。
二つのパートが近づいて、一体となっていく終盤は圧巻です。そして随所に挟まれる、「十五年後の私」への手紙。これも一つのパートとなり、合唱と同じように物語の深みを増しています。この構成の鮮やかさも必見です。
大人の方は中学生だった頃を思い出しながら、そしていま学生の方は十五年後の自分に思いを馳せながら、幅広い年代の人に読んでほしい一冊です。
選書:「くちびるに歌を」(ISBN:9784093863179)
出版社:小学館
著者:中田 永一
税込:1,575円
(ブックファースト 新宿店 平本 久美子)
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