ミステリー小説の紹介は難しい。「謎解き」が精緻に創られていればいる程、その作品の魅力、作品的価値を説明しようとすれば、「ネタばらし」に繋がることになり、これは読者に対して重大なエチケット違反となる。とはいえ、とにかく素晴らしいから読んでみて、というのも芸のない話となる。
本作は、2011年の各ミステリーランキングで漏れなくランクインしていて、このことがミステリーとしての客観的な価値を示していて、とりあえずの品質説明にはなる。余談だが、「このミステリーがすごい」「週刊文春ミステリー」「ミステリが読みたい」「本格ミステリーベスト10」など、すべて3位というところが面白い。
十八世紀のロンドンという時代設定、主要な舞台が、当時の病院外科医による私設死体解剖室、登場するのが医学研究に勤しむ医師とその助手たちや盲目の治安判事など、翻訳小説と見まがう趣きを醸し出す。(みんな英国人だから当然で、登場人物一覧を頻々に繰らなければならない!)物語は、非合法に手に入れた死体を解剖中の医師達が、官憲の手入れを受けるところからスタートする。
当時の医療事情を始め、時代の風俗がつぶさに調べられ、リアリティのある造形で物語が進んで行く。歴史小説の味わいもある作品だが、物語の重要な鍵となる登場人物である詩人を夢見る青年と、若き解剖医達との関わりにより、青春小説の色合いも与えられ、本作は、有り勝ちな、猟奇的でグロテスクな雰囲気だけの作品とは一線を画している。青年のエピソードでは、その時代の出版事情や文学の状況なども描かれる。彼がフランスから輸入された流行小説を、ひと目惚れした令嬢に請われ翻訳しながら朗読する場面など、実に興味深いものである。
彩り部分も魅力だが、本筋の謎解明の過程こそ、一気に読ませられる本作の真価であるのは間違いない。
書 名:開かせていただき光栄です
著者名:皆川博子
出版社:早川書房
定 価:1,890円
(ケイ・コーポレーション 黄木宣夫)
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