河村常雄の劇場見聞録

本文です
前の記事

Photo <見>劇団若獅子が、結成20周年記念公演Ⅱとして「沢田正二郎物語」を、9月16日から21日まで、東京・三越劇場で上演した(前後に地方公演あり)。
 「国定忠治」や「大菩薩峠」など男の芝居で一世を風靡した劇団新国劇が70年の歴史の幕を閉じた昭和62年(1987)に、幹部俳優・笠原章が新国劇の灯を消すまいと結成した劇団若獅子。今回は、「沢正」の愛称で親しまれ、国民的人気俳優の地位を勝ち得ながら昭和4年、36歳の若さで急逝した新国劇の創始者・沢田正二郎の半生に、田中林輔の作・演出で取り組んだ。
●笠原、沢正役に気合
 沢正役の笠原は未だに新国劇にこだわり、芸風を伝えるために劇団若獅子を主宰しているだけあって、これまで以上に気合が入る。 
旗揚げ公演失敗の挫折や警察の嫌がらせにもめげず、大衆演劇に情熱を傾ける劇界の風雲児をさわやかに演じた。
●朝丘の魅力的な千種姫
 劇中劇に「大菩薩峠」と「白野弁十郎」があり、楽しませてくれたが、短時間のものながら後者には胸を打つものがあった。
 いうまでもなく、フランス戯曲「シラノ・ド・ベルジュラク」の翻案劇。
醜い巨大な鼻に悩む詩人で剣豪のシラノは白野。シラノが愛しながらも告白できなかった美しい女性ロクサーヌが千種姫である。
 白野の笠原は、この役を1人芝居で演じた島田正吾を彷彿させる。告白できない悲しみが伝わる。
 千種姫は、沢正に尽くし新国劇の母と呼ばれた女優・久松喜世子役の朝丘雪路が演じた。様式的で不思議な美しさが魅力的だった。
 これは、劇中劇でなく、本公演で見たいものだ。
 ほかに、大出俊、南條瑞江らが好演した。
   ◆
 昭和62年9月7日夕、東京・浜町会館で新国劇の劇団総会が開かれ、解散が決まった。そのときのスクラップを見ると、「劇団関係者27人中26人が出席、過半数の劇団員から存続を求める声が出されたが、島田、辰巳(柳太郎)さんの説得に応じ、全員が了承したという」と私は書いている。
 島田、辰巳両代表が会見し、辰巳は「座員だけでは大劇場で公演が出来なくなった。悲しい気持ちでいっぱいだ。新国劇の看板は沢田家に返すが、これをもって解散とは考えたくない」と苦しい胸の内を語った。
●沢田精神は体の中に
 島田はその前に、出演中の新橋演舞場の楽屋で、「時節に負けたとも言えるが、誇り高く負ければ、意義もあり価値もある。今後は、どういうことになるか分からない。たとえ、別れ別れの形になりましょうとも、沢田精神は劇団員1人1人の体の中に生き続けることと信じています」と訥々と述べていた。
 あれから20年。新国劇のような男の芝居を駆逐した女優芝居も、往時の勢いはない。
 男のロマンを追う若獅子の健闘を祈る。
<聞>若獅子代表の笠原章にインタビューした。
――劇中劇の白野弁十郎は島田さんの名演を思い出しました。
 「私たちは、島田、辰巳両先生の方法を踏襲していかなければならない、と勝手ながら思っているわけです。島田先生の白野の名演技を見てきている。これも『国定忠治』や『月形半平太』のように踏襲していきたい。それで劇中劇でやってみました。やってみまして、いいせりふ、いい芝居、島田先生はお幸せだったと思いました」
●島田先生は教科書
――ラストは島田さんの息づかいそのものでした。
 「先生のは教科書ですから、とにかく物まね。似ていると言われると光栄です」
――新国劇創始者の沢正を演じた気持ちは。
 「もちろん、見たことも聞いたこともない人で、何とかあの風雲児ぶり快男児ぶりが出ればと思ってやりました。感想を言えるほどのものではないのですが、いい気持ちですね。大変な方だったのだなと思いました」
――この作品に沢田さんの弟子だった島田、辰巳は出てきませんね。
 「沢田先生の活躍中のころは島田、辰巳両先生はまだ研究生のようなところでした。それに、出ない方がお芝居は深いのではないでしょうか」
●山あり谷あり
――若獅子結成20年を振り返っていただくと。
 「山あり谷あり。演劇自体が大変なとき、自主公演が出来るだけ幸せです。劇団員20人だったのが6人になり、いま若い人が3人入って9人。いい人が残ってくれたので、ここまで来られました」
――これらについてうかがいたいのですが。
 「新国劇の精神は、男のロマンティシズム。これからも男のロマンの芝居をやっていこうと思います」
――来年5,6月の次回公演は石川耕士作・演出の「鍵屋の辻」に決まりました。仇討ち物ですね。
 「男の友情と夫婦愛を縦糸と横糸にしたドラマにしたいと思います。沢田先生没後80年、その精神を伝えていけるかどうかは、私たちの活躍如何にかかっていると思います」
――ありがとうございました。
(写真は笠原章=北野謙撮影)

前の記事

 <見>歌舞伎や能楽、文楽、邦楽、舞踊、そして新劇、ミュージカルなどあらゆる分野の劇場公演の中から、「面白い!」と思ったものを紹介します。従って、褒め上げる記事ばかりです。 <聞>出来るだけ、出演者やスタッフに「面白い!」わけを聞き、紹介します。

河村 常雄

 1973年入社。水戸支局、整理部(現・編成部)の後、学生時代より歌舞伎に興味を持っていたことから芸能部(現・文化部)に移る。演劇担当、デスクを経て、専門委員。この間、文化庁芸術祭・芸術選奨の演劇部門審査委員、鶴屋南北戯曲賞選考委員などを歴任。現在、読売日本テレビ文化センター勤務。著書に「かぶき立ち見席」(演劇出版社)。

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29