河村常雄の劇場見聞録

本文です
前の記事

●幸吉新時代
 今月の歌舞伎座を見て、「幸吉新時代」の到来を感じた。幸四郎・吉右衛門兄弟が、そろって新たな魅力を見せたからである。
 どういうことかというと、時代物を得意とする幸四郎と吉右衛門の2人が、昼の部の時代物「新薄雪」で、園部兵衛と幸崎伊河内賀守をそれぞれ好演しているのに何の不思議もないのだが、二人とも「河内山」などヒーロー役を除いては不得手と思われる世話物(場)で絶妙の演技を披露しているのだ。
 すなわち、山幸四郎は「生きている小平次」の太九郎で、女房おちか(福助)の不倫相手・小平次(染五郎)を殺し、そのことにおびえる太鼓打ちを陰翳深く演じている。
 吉右衛門は時代物「義経千本桜」の中の世話場「すし屋」の権太。江戸前の権太で、柄は違うが、せりふ回しと雰囲気は二代目松緑そっくり。「戻り」では情がこもり、こんなに泣かせるとは思わなかった。
 なぜ、ここまで到達したのか。
 共演する機会の少なかった2人が一昨年の「先代萩・床下」あたりから舞台でしばしば火花を散らすようになった。「寺子屋」「金閣寺」「九段目」と時代物の名舞台を生み出した。兄弟が共演することで、元々上手い時代物の芸を頂点まで押し上げることができ、それが世話物の腕を引きあげたと見る。
 いずれにせよ、世話物を味方につけた2人は怖いものなしだ。公演は27日まで。

前の記事

 <見>歌舞伎や能楽、文楽、邦楽、舞踊、そして新劇、ミュージカルなどあらゆる分野の劇場公演の中から、「面白い!」と思ったものを紹介します。従って、褒め上げる記事ばかりです。 <聞>出来るだけ、出演者やスタッフに「面白い!」わけを聞き、紹介します。

河村 常雄

 1973年入社。水戸支局、整理部(現・編成部)の後、学生時代より歌舞伎に興味を持っていたことから芸能部(現・文化部)に移る。演劇担当、デスクを経て、専門委員。この間、文化庁芸術祭・芸術選奨の演劇部門審査委員、鶴屋南北戯曲賞選考委員などを歴任。現在、読売日本テレビ文化センター勤務。著書に「かぶき立ち見席」(演劇出版社)。

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29