河村常雄の劇場見聞録

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<見>このところ九月歌舞伎座は初代吉右衛門所縁の演目を中心にした秀山祭公演が恒例だが、今年は16か月連続の歌舞伎座さよなら公演のため、通常の九月大歌舞伎に戻った。しかし、初代の孫である幸四郎・吉右衛門兄弟が芯になっているので実質的には秀山祭の趣。
幕開きの司馬遼太郎原作「竜馬がゆく」は、染五郎が坂本竜馬に挑む三部作の完結編「最後の一日」。竜馬暗殺までの数時間を脚本の斎藤雅文がスリリングに展開。染五郎は竜馬を、私欲なく維新回天を望み、人間味あふれる魅力的青年に作り上げた。これで完結は惜しい。「元禄忠臣蔵」のように「最後の一日」から遡って続編を作ってもいいのではないか。
 このシリーズで松緑も一回り大きな役者になった。今回の中岡慎太郎も男気と友愛がある。近江屋使用人とめ役の芝のぶも好演。
「馬盥(ばだらい)」は、光秀(吉右衛門)が馬のくつわを洗う盥で酒を飲まされるなど主君・春永=信長(富十郎)にいじめ抜かれ、ついに本能寺で春永を討つ決意をする過程を描く。
 吉右衛門は、下賜された掛け軸の箱の中身がかつて浪々の身の折に妻が売った切り髪であることに気づいたとき、その箱を立てて春永打倒を決意するときの見得が重厚にきびきび極まる。そして花道の見得。見得と肚が一体となって迫ってくるのが吉右衛門歌舞伎の魅力だ。
 富十郎は甲の声を効かせて横暴さを示す。
 幸四郎の但馬守がごちそう。
 最後が幸四郎の「河内山」。位の高い使僧に化けて娘を松江侯(梅玉)の魔の手から救う河内山を、大金をせしめる「書院」から正体を見破られる「玄関先」まで、流れよく軽やかに演じた。洒落ていて心地よい。
 高木小左衛門の段四郎がいい味を出している。
舞踊は芝翫らでにぎやかに「お祭り」。5日所見。
26日まで。

 
 

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 <見>歌舞伎や能楽、文楽、邦楽、舞踊、そして新劇、ミュージカルなどあらゆる分野の劇場公演の中から、「面白い!」と思ったものを紹介します。従って、褒め上げる記事ばかりです。 <聞>出来るだけ、出演者やスタッフに「面白い!」わけを聞き、紹介します。

河村 常雄

 1973年入社。水戸支局、整理部(現・編成部)の後、学生時代より歌舞伎に興味を持っていたことから芸能部(現・文化部)に移る。演劇担当、デスクを経て、専門委員。この間、文化庁芸術祭・芸術選奨の演劇部門審査委員、鶴屋南北戯曲賞選考委員などを歴任。現在、読売日本テレビ文化センター勤務。著書に「かぶき立ち見席」(演劇出版社)。

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