河村常雄の劇場見聞録

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骨太で人間くさい加藤の魅力
Photo <見>マキノノゾミが南北賞を獲得した2000年の作品。その初演を演出した鈴木裕美は読売演劇大賞の優秀演出家賞に輝いた。主役・猪原の高橋長英も好評だった。再演もされ評価の固まった作品に加藤健一が挑み、楽しめる舞台を作った。今回の演出は高瀬久男。

 30年ほど前の夏、静岡県の小さな町の物語。男子高校生に同性愛を迫った疑惑で15年前に高校教師を辞した猪原(加藤)は雑貨屋を営みながら、老いた父(滝田裕介)と30歳になる娘(占部房子)と暮らしている。そこへ、この春に二人乗りバイクの事故で友人を失い、事故現場を通りかかった猪原に世話になった大学受験生(海宝直人)が訪ねてきたことから、猪原退職の真相が明らかになっていく。

 一幕は、受験生の登場から猪原が後輩教師(小泉今日子)にプロポーズし、結婚が決まるまで、歯切れよく一気に進む。ここは加藤の喜劇のセンスが活きる。
二幕で、バイクの同乗者と思われていた受験生が、実は無免許運転で友人を死なせていたことを告白する。さらに猪原は噂通り、かつて教え子の男子高校生に恋をしたと語り出す。
 自分が黙っていれば露見することのない重大な秘密に苦しむ2人が、スリリングに丁寧に描かれていく。
 加藤は、一時の心の迷いに苦しみながらも教育への情熱を捨て切れない酒好きの元熱血教師を骨太に人間くさく演じている。
 世間の虚飾に惑わされず、公明正大に生きようではないかと作品は訴える。
そういえば、猪原の名前は正義だった。
出来すぎに思えるハッピーエンドも、猪原の好んだ歌、「屑たばこ集めて喫へれど志す 高き彼物忘らふべしや」が本作のテーマとすれば、さしたる問題ではあるまい。

 人気歌手の小泉はすっかり舞台女優らしくなった。往年の二枚目俳優の滝田がステテコ姿の老人役を軽く演じているのもほほえましい。

19日所見。
――29日まで本多劇場。
(写真は「高き彼物」)=加藤健一事務所提供 

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 <見>歌舞伎や能楽、文楽、邦楽、舞踊、そして新劇、ミュージカルなどあらゆる分野の劇場公演の中から、「面白い!」と思ったものを紹介します。従って、褒め上げる記事ばかりです。 <聞>出来るだけ、出演者やスタッフに「面白い!」わけを聞き、紹介します。

河村 常雄

 1973年入社。水戸支局、整理部(現・編成部)の後、学生時代より歌舞伎に興味を持っていたことから芸能部(現・文化部)に移る。演劇担当、デスクを経て、専門委員。この間、文化庁芸術祭・芸術選奨の演劇部門審査委員、鶴屋南北戯曲賞選考委員などを歴任。現在、読売日本テレビ文化センター勤務。著書に「かぶき立ち見席」(演劇出版社)。

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