河村常雄の劇場見聞録

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●立役、女形に限らず古典の蓄積を
0001 <聞>時の花真っ盛りの女形、尾上菊之助が、1月国立劇場初春歌舞伎「旭輝黄金鯱(あさひにかがやくきんのしゃちほこ)」で、立役の小田家家臣・鳴海春吉を演じている。本水で鯱と格闘する「鯱つかみ」にも挑んで大奮闘。昨年11月の新橋演舞場「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」では、濡れ場あり、旧主のための割腹ありの立役、笹野屋三五郎を好演した。立役づく菊之助にインタビュー。

――昨年の笹野屋三五郎、今月の鳴海春吉と本格的な立役が続いていますね。三五郎は菊之助さんが希望した役ですか。
 「『三五大切』をやるので三五郎を、といただいた役です」
――これまでなら一昨年の名古屋・御園座のように、演じるのは三五郎の相手の小万ですね。
  「そうですね、確かにこれまで女形を多く勉強してきましたので、役をいただいたとき少し考えました。果たして今やらせていただいていいのかと。でもよくよく考えると、父が菊五郎を襲名したのは30代で、『助六』も演じている。だんだん立役に変わっていった年代だと思います。初代菊五郎を考えても、女形から始まって立役に転換しています。音羽屋に生まれたからには女形を勉強し、立役もできればいいなと思ってはいたんです。三五郎という話をいただいて多少は考えましたけれども、32歳になっていましたし、これはやらせていただきたいなと思いました」
――そうしますと立役への転換点にいるのですか。
 「転換点という大きな節目とは、僕は思っていないのです。まだまだ女形として勉強させていただいていない役もありますし、立役、女形と限らないでやっていきたいと思います。今年歌舞伎座が新しい方向に向かっていきますので、その中で、まだやらせていただいていない古典の役をしっかり蓄積しなければならないと思っています」

――三五郎では白塗りの顔ではなく、塗(と)の粉を入れて、少し茶色にしました。いつも白塗りの菊之助さんにしては珍しい。
 「ほとんど初めてです」
――ご自身の中で抵抗はなかったのですか。
 「それは全くなかったですね」
――三五郎は出だしの川船の場面で、なまめかしい塗れ場がある。女形とはまた違った難しさのある役ですね。
 「三五郎の見せ方とか、どうしたら三五郎になれるかで、多くの先輩の芝居を見ていてよかったと思います。見ることが蓄積になっています。それより作者である鶴屋南北の世界観が難しかったですね。せりふにしても河竹黙阿弥の七五調に慣れているのだなと思いました。南北になって字余りだったり、字足らずだったりして、七五調で歌わずに三五郎のセリフをリアルに語るには生々しさが必要になってくる。せりふ回しには苦労しました」
――三五郎という人物も難しいですね。
 「三五郎は小狡さもなければいけないし、男の色気も必要。武士ではありませんが、最後は主君のために腹を切るというつもりでやりました。野球でいうとフォアボールやボークも覚悟の上で球を投げていました」
――ストライクを取りに行かずに思い切ってやったわけですね。
 「父を始め諸先輩の三五郎をまねても所詮できないですからね」

――今月は、まるで新作のような復活物です。
 「国立劇場の復活公演では毎年、自分の引き出しにない役をいただいています。挑戦でもありますが、一から作り上げていく国立のような作品に出合うと場面全体をどういう風にしたら面白くなるかを考えていますし、その中で自分がどう動けばいいかを考えるので、毎年勉強になっています」
――最大の見せ場は菊之助さんの本水の「鯱つかみ」では。この役が決まったときは。
 「非常に楽しみに思いました。立ち回りはこの国立劇場公演の眼目のひとつでもあり、その場面を任せていただき、やりがいを感じましたが、その中で本水を使うと聞いて、余計やりがいを感じました。ただ、どうしたら面白い鯱つかみになるがが難しい問題で、だいぶ試行錯誤しました。どうしたら効果的に見えるのか。お客さんが喜んでくださるか。たとえば鯱を上(かみ)から下(しも)へ糸で引っ張ったらどうか、でもそれは出来ないねとか、あらゆる可能性を考え今の形になっているのです」
――客席は大歓声でしたよ。
 「水の中の立ち回りは客席がほとんど見えないので、どういう反応をしていただいているか分からない。大詰で父が三段に上がって極まったときお客さんが本当に喜んでくださっていることが分かったとき、やってよかったと思いますね。立ち回りをしているときは無我夢中で分からないですから」
――水の中の演技で体に気を付けていることは。
 「やる前にしょうが湯を飲んでいます。体を温めるように」
――水に入るので風邪が大敵ですね。
 「それに一番気を付けています」
 ――これからも立役は多くなりそうですか。
 「臆することなくやっていきたい。先のことは分かりませんが、父の手掛けている『魚屋宗五郎』や『髪結新三』もやってみたいなと思っています」
――楽しみにしています。ありがとうございました。
(写真は尾上菊之助)=国立劇場提供

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 <見>歌舞伎や能楽、文楽、邦楽、舞踊、そして新劇、ミュージカルなどあらゆる分野の劇場公演の中から、「面白い!」と思ったものを紹介します。従って、褒め上げる記事ばかりです。 <聞>出来るだけ、出演者やスタッフに「面白い!」わけを聞き、紹介します。

河村 常雄

 1973年入社。水戸支局、整理部(現・編成部)の後、学生時代より歌舞伎に興味を持っていたことから芸能部(現・文化部)に移る。演劇担当、デスクを経て、専門委員。この間、文化庁芸術祭・芸術選奨の演劇部門審査委員、鶴屋南北戯曲賞選考委員などを歴任。現在、読売日本テレビ文化センター勤務。著書に「かぶき立ち見席」(演劇出版社)。

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