あんなに暑かった大阪の街も、朝夕、めっきり、涼しくなり、16年ぶりに日本で開かれた世界陸上が、幕を閉じました。特集コーナーで展開してきた取材団ブログ「ながい見聞録」も、これで終了です。ご愛読ありがとうございました。明るくたくましい便乗商法で沸く商店街や、中年アスリートの勇姿にわが身を振り返るメタボ記者の嘆きなど、さまざまな視点からのレポートをお届けしましたが、お楽しみいただけたでしょうか。
ところで、成績が今ひとつだった日本勢、何か、背景があるのでしょうか?メディア側が期待をかけすぎた面もあるでしょうですが、痛感したのは、メダル有望と見られた選手の多くが、期待が高まるにつれて、自分を見失ってしまったのではないか、ということです。メダルを「取りたい」が「取れる」に、そして「取らなければ」にエスカレートして、自らを縛りつけてしまったのでしょう。
日本勢は、この10年、外国人との圧倒的な「排気量」の差を、「技術と工夫」でカバーして徐々に距離を縮めてきたのですが、それを発揮できぬまま、敗れたという感じがします。
来年は、いよいよ、北京五輪。今回の試練を糧に、日本勢が1年後に鮮やかな復活をとげ、感動のリベンジブログをお届けできることを願いたいものです。
(東京メディア戦略局 世界陸上取材班 水戸英夫)
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早朝、女子マラソンの先頭ランナーの姿を撮影しようと、淀屋橋交差点に向かいました。ところが、地下鉄から地上に出たとたん、人の波。復路、御堂筋を折り返し土佐堀通りに向かう先頭集団をカメラに納めたつもりが、撮れたのはご覧のような有様です=上写真=。小旗の左に、かすかに先頭集団らしきものが見えるでしょうか。
42.195キロにこれだけの観衆、そして大声援。日本人選手にはかなり心強かったはず。
実際、レース後の会見でも土佐選手は「(5位に落ちたあとの)最後の数キロ、観衆の声援をどう思いましたか」との質問に、「日本での開催はラッキーでした。皆さんの声援で背を押された感じがします」と、ホーム日本での応援がメダル獲得の原動力になったと答えています。
でも、土佐選手が会見前の囲み取材=下写真=で語ったこんな言葉が心に残りました
「前半は全然涼しいからどうしようかと思いました。後半、『照れ』『照れ』と祈っていました」
「(4位のときに)3位の背中を見て、『落ちろ、落ちろ』と呪って走りました。3位に上がってからも、2位を呪いましたが駄目でした」(笑)
相手を蹴落とし、引きずり落とそうとする、アスリートの激しい闘争心が垣間見えます。土佐選手の「粘り」は闘争心あってのものです。
そして、今でも釈然としないのは、男子ハンマー投げ決勝で6位に終わった室伏広治選手が、優勝したイワン・チホンの“ウイニングウォーク”に同伴したシーンです。もっと、悔しさを出しても良かった気がします。
来年の北京五輪では、日本人選手の闘争心に期待したいものです。
(東京メディア戦略局編集部 林 宗治)
「グレートバリュー」「コンビニエント」――。日雇い労働者の街として知られる、大阪・西成区のあいりん地区の「ビジネスホテル中央本館」のロビー。がっしりした体格の白人男性が、話しかけてきた。
声の主は、フリーランスのカメラマンのシーン・アーネットさん(52)=写真左端=。アメリカの陸上専門誌「トラック・アンド・フィールドニュース」から、世界陸上の取材で派遣され、大会期間中、ずっとここに泊まっているという。このホテル、元々は労働者向けの簡易宿泊所だったのだが、長引く建設不況で一般客向けの格安ホテルとして生まれ変わったもので、この特集サイトの「長居の熱い夏」でも紹介した。
アーネットさんによると、フリーランスは取材経費の自己負担分が大きく、格安ホテルを探していたところ、日系人の知り合いのからこのホテルを教えてもらったという。仕事柄、大量の撮影データをインターネット経由で送るが、ここはブロードバンド回線も無料。それでいて、一泊わずか2600円という安さ。
「いろんな所を旅しているが、ニューヨークはおろか世界中探したって、こんなホテルはないよ」とご満悦の様子。長期滞在の外国人出張者の間で、ますます評判になりそうだ。
最終日、ついにやってくれました。土佐礼子選手、女子マラソンで銅メダル獲得です。世界の強豪と最後まで競り合いながらの3位。最後の最後に、開催国の意地を見せてくれました。
今大会、日本勢は苦戦が続きました。でも一昨日、男子400メートルリレー一次予選で、気迫の走りで決勝進出を果たして以来、少し流れが変わったようにも思えました。昨夜の長居は、初のチケット完売。満員の観客の声援を受けて、女子1600メートルリレー一次予選などでも、日本勢は力強い走りを見せてくれました。
もう一度最初からやり直すことができたら……とも思いますが、それは来年の北京五輪、再来年の世界陸上ベルリン大会まで待っておきましょう。今回の結果を誰より悔しく思っているのは選手たちでしょうし、彼ら、彼女たちは捲土重来を期しているはずです。
捲土重来といえば、初日、男子マラソンの写真で見事に失敗した私も、この最終日の女子マラソンに期するものがありました。今回は作戦を練り直し、大阪城公園から長居公園に場所を移して待機。勝負はおそらく最終盤にもつれ込むだろうし、何よりここなら沿道の観客も多いはず……という計算です。
日差しは男子マラソン当日より幾分ましに感じましたが、それでも相当なもの。さらに人垣の中に立っているため、蒸し暑さも感じました。先導の白バイに続き、まず、やってきたケニアのヌデレバ選手、次に中国の周選手を撮影。土佐選手もまずまず、無事に撮ることができました。
土佐選手の足元に落ちる影が、日差しの強さを物語っていますね。残り1キロを切り、表情も相当苦しそうです。写真の右端、小さな女の子が耳をふさいでいるのは、追撃を願う「がんばれー」の声が、周囲からすごい音量で沸き起こったからでしょうか。そんな風にいろいろ考えて、多少無理やりにでも臨場感を楽しんでいただければ幸いです。
(大阪メディア戦略室電子編集部 藤井泰介)
大会第8日の9月1日夜、長居陸上競技場でさわやかな光景を目にしました。
リレー陣への期待で、ほぼ、満員のスタジアムで行われた「キング・オブ・アスリート」を決める男子十種競技。
2日目の最終種目となる1500メートルで1組の選手が終わると、走り終えた選手たちは、互いに握手を交わしたり、抱き合いながら、健闘をたたえ合い始めたのです。輪の中には日本の田中宏昌選手の姿も。
輪は、さらに広がります。続く2組の選手がゴールすると、フィールドで見守っていた1組の選手たちも交えて、握手と抱擁の輪が大きくなっていきます。優勝がシェブルレ選手(チェコ)に決まると、最後は全員で“ウィニングラン”。暑い大阪で2日間、死闘を尽くして戦い抜いた選手たちにとって、まさに“全員が勝者”という気持ちだったのでしょう。
バックストレートにたどり着くと、選手たちは一列に並び、互いに手を取り合ったまま、2度、3度と頭上に高く手をあげ、観客席に挨拶。秋めいた夜風の涼しさを、さわやかなスポーツマンたちが一層、心地よくしてくれました。選手の誰もが輝いて見えた、すてきな瞬間でした。
(東京メディア戦略局編集部 村井利之)
今日で最終日、世界陸上もこれで終わり。何かが終わるというのは、何か寂しさがつきまとうものです。
でも、ほっとしていることもあります。記者席のなかの私の席は、ほぼゴールライン上、いいところにあります。しかし、それはスタンドの最上段でした。
VIP席には、エレベーターはありますが、そこは入れず、記者席にいくには、階段を使うしかありません。地上階から私の席まで、階段の数を数えてみました。何と、101段。ここにじっと座っているわけにはいかず、ミックズゾーンまで選手の取材に行くのですから、ハードワーク。午前2往復、午後は2,3往復。
一日、505段平均の階段上りのトレーニング。9日間で4545段、脚筋力は、かなり鍛えられました。せっかく盛り上がってきた世界陸上が終わってしまうのは、残念ですが、明日から、このトレーニングをしなくていいことだけは、歓迎しています。
(陸上ライター 石井 信)
男子百メートル決勝。メーンスタンドに、弟を見守る元スプリンターの姿があった。ドノバン・パウエル。35歳。銅メダルを獲得した世界記録保持者、アサファ・パウエル(ジャマイカ)の兄である。
「陸上をやっていた父の影響で僕が陸上を始め、僕の影響で弟たちが始めた」。パウエル家は6人兄弟で、ドノバンは長男、アサファは末っ子。全員が陸上を楽しみ、誰かが大会に出場する時は、家族みんなで競技場に駆けつけた。
「いつも、じっと僕の話に耳を傾けている素直な弟なんだ」。金メダルを狙って、3位。肩を落として戻ってきた弟に、「まだ若いんだから落ち込むな。来年の五輪に向けて、また練習に励もう」と声をかけた。そしてドノバンは言う。「アサファには、息の長い選手になってほしいんだ」。
大舞台に挑んだ選手の陰に、家族がいる。金メダルを取った選手、予選で負けた選手……。それぞれの戦いの後に、何を語り合ったのだろう。予選を終えて、敗れた日本選手が、長居の競技場から家族3人で歩いていく姿が見えた。失意からの再出発。それを支えるのも「家族の力」だ。
(東京運動部 大野展誠)
イタリア陸上競技連盟が世界陸上の期間中、大阪市内のホテルに開設している「カーサ・イタリア(イタリアの家)」に行ってみた。イタリア食材の試食会などのほか、中部アブルッツォ州、南部モリーゼ州など特定の地方に焦点を当てたディナーも夜ごと開かれている。
同陸連のマルコ・シカリ広報部長は、カーサ・イタリアの狙いについて、「地元との交流に加え、イタリアのライフスタイル、食、文化を売り込むこと」と説明する。
さてディナーだが、開始時間が午後10時と、非常に遅い。私、実は、2004年までローマ特派員だったので、イタリア人の夕食時間が通常、9時以降で、8時ころにレストランに行くと日本やアメリカからの観光客しかいない状態だったのは覚えている。でも、体はこんな生活習慣をさっさと忘れているから、10時までの“おあずけ”はつらい。
日本人にとっての夕食時間の「常識」をシカリさんに伝えると、「わかってます。だから早めて10時なのです。まだ、長居では決勝が続いているでしょう。本当は、競技を見終わって会場から引き揚げてからでも間に合う11時以降にしたかった」と返された。
あっ、重要なことを忘れてました。私、カーサ・イタリアのディナーでは、取材で忙しく、チーズとサラミしか食べていません。出かける時、紙面作りで忙しいデイリー・ヨミウリ(読売新聞の英字紙です。世界陸上のオフィシャル・ペーパーです)の同僚が冷たい視線を投げかけてきたので、この点は強調させていただきます。
(大阪英字国際課 秦野るり子)
世界記録更新がかかる瞬間に人生で何度立ち会えるだろうか。大会4日目、女子棒高跳びで圧倒的な強さで優勝を決めたロシアのエレーナ・イシンバエワが自身の持つ世界記録更新をかけ、さらなる跳躍に挑もうとしていた。スタジアム中の目が彼女の一挙手一投足に注がれ、マスコミ、観客を問わず競技場内のほとんど全てのカメラが彼女に向いていた。
私も助走路正面のスタンドに陣取り、肩をすり合わせるほど居並ぶ各国カメラの放列の中に居た。望遠レンズのファインダー内で跳躍に集中しようと、何かを自らに語りかけるイシンバエワ。表情、唇の動きまで全てが伝わってくる。世界記録達成の瞬間を、強く美しい彼女が見せる最高の笑顔を、この手で撮影したい。「なんとか跳んでくれ」心の中で願っていた。
実は彼女に対しては特別な思いがあった。今年の欧州の国際陸上を皮切りに大会直前の香川県丸亀市での合宿と、何度か取材をした。宿泊先のホテルで偶然エレベーターに乗り合わせた時は試合への抱負、調子など気さくに話をしてくれ、こちらの企画取材にも積極的に協力してくれた。練習場では向こうからあいさつまでしてくれる。英語が堪能でよく話し、笑顔を絶やさない。「世界一」という肩書さえ忘れさせる親しみやすさが彼女にはあった。
助走を始めたイシンバエワをファインダー内で追う。必死の形相で跳躍し、5メートル2の高さを目指して空中に昇っていく彼女は美しさだけでなく、力強さに満ちていた。結果は三回の跳躍とも失敗。世界記録の更新はならなかった。
跳躍を終えた彼女をフィールドのカメラマンが取り囲む。その輪の中で彼女は観客に手を振り、笑顔に戻っていた。
翌日の表彰式、彼女は私を見つけて視線と笑顔をくれた。表彰台から降りた彼女に「おめでとう」と声をかけた。「ありがとう」と笑顔を返してくれたイシンバエワ。勝ってもおごらない印象は少しも変わらなかった。またいつか彼女の世界記録更新の機会に立ち会えたら、と願わずにはいられなかった。
(大阪写真部 菊政哲也)
取材のコンタクトを取ろうとして大会組織委員会の広報担当者に電話をかけ続けた午後の数時間。連絡がとれず、いい加減しびれを切らして待っていると、スタジアムの方角からスタート前の合図であるホラ貝の響きが。
あれっ、30日の競技は、夜の7時半からのはず。「スケジュールが変更になったのか?」。やがて、メディアセンターの壁に掛かっているディスプレーがスタジアムの様子を生中継し始めました。そこには、なんと、連絡がとれないその人がトラックを、ニコニコと笑いながらゴールしているではありませんか。
あわてて、スタンドに駆けつけました。実は、その人、取材陣、大会関係者による、「メディアレース」と呼ばれる親睦の800メートル走に参加していたのです。国際大会では競技のない日に開かれるアトラクションで、みんな実に楽しげです。
親睦レースには約80人の “選手”が参加しましたが、競技経験者も多かったようです。私も高校時代の体育祭で400メートルを走ったことがありますが、倍の800メートルを笑顔でゴールとは、何たる余裕。
そこでご本人に「疲れた様子もなく、800メートルを完走とはすごいじゃないですか。陸上の経験者だったんですね」と聞くと、「実はヘロヘロでした。陸上もやったこともありません」と苦笑いのコメント。 広報関係者として、大会を盛り上げるための気遣いを察しました。
大阪世界陸上のメーン会場は、大阪市の長居(ながい)陸上競技場です。取材にあたる読売新聞の取材チームも、ここを拠点に、熱く「長い」日々を過ごします。原稿は「長い」とは限りませんが、紙面とは一味違う記者やカメラマンの素顔をご覧ください。今回は取材団に加え、スポーツライターや陸上関係者も飛び入り参加する予定です。トラックバックに関する編集方針について